その手をつかまえろ! 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「気にしてないよ。ホントは早く、こうやって話さなきゃいけなかったんだけど」 「や! 俺のほうこそ」 瀬戸の科白にかぶせるように、俺は言った。コイツだけが悪いんじゃない。俺だって言わなきゃなんないことがあるんだ。 「あのな」 俺はさっきと同じように声をかけて、瀬戸の様子をうかがった。 上手くは言えない。 それでも何とか伝えたい。コイツがこれ以上、変に思い詰めないように。 俺は一度深く息をついてから、口を開いた。 「俺もさ……無理に忘れること、ないと思う」 「え……?」 瀬戸が驚いて、目をみはった。言われてる意味が理解できない。そんな表情だ。 「何ていうか……忘れられないってことは、忘れるのがつらいってことだろ? だったら、無理することないと思うんだよ」 「でも!」 納得できない様子の瀬戸は、ぐっと力のある瞳でこちらを見上げてくる。 「そんなの、いい加減じゃない。そんなんじゃ曽根が」 「だからな!」 言い募る彼女を遮る。思いのほか大きな声になってしまったので、瀬戸がびくっと首を竦めた。俺は「わりぃ」と一言告げて、そのまま続ける。 「俺に悪いとか、考えんな。そう考えてお前が今しんどい思いをしてるほうが、俺は嫌だ」 「曽根……」 「泣きそうな顔するくらいなら、無理することねえよ」 そんなカオ、させたいわけじゃない。 「簡単なことじゃないんだろ?」 俺が落とした問いに瀬戸は一瞬迷って、頷いた。俺はそんな彼女をほんの少しだけ複雑な気分で眺めながら、ひとつひとつ言葉を選ぶ。 「そりゃあ、何かにつけて引き合いに出されたら面白くないけどさ。でも」 不自然に途切れた科白に、瀬戸の瞳が揺れた。きゅっと唇を噛んで俺を見上げている。 「お前にそんなつもりないの、判ってるし。それにその人が居なかったらお前、今のお前と違う人間になってたかもしれない」 もっとおとなしい奴だったかもしれない。あまり笑わない奴だったかもしれない。 それは俺が大事だと思っている瀬戸とは、全然違う人間だ。 俺は今の瀬戸――やたら元気でよく笑って、思い込みの激しいヘンな奴――と一緒にいられるのが楽しいんだ。そのコイツのコイツらしさは、俺の知らない誰かを想って、ずっと一緒にいたから出来上がったもので。 だから悔しいけど、真っ向から否定するなんてできやしない。 |