その手をつかまえろ! 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「悪いんだけど」 俺は握った手にそっと力をこめた。 「これ以上避けられたら、さすがにへこむから」 今この手を振り払われたら――俺はどうしても怖くて、瀬戸を放してやることができなかった。 瀬戸は一瞬気まずそうに顔を歪めたけど、すぐに神妙な表情で頷いた。その姿に、ほっと息をつく。 「あのさ」 呼んではみたものの、後が続かない。言いたいことだって聞きたいことだって山のようにあるのに、言葉が出てこない。 走り続けたせいもあるんだろう。口の中がカラカラで、舌が喉に張りついてしまいそうだ。そんな不快感が余計に思考の邪魔をする。 瀬戸も俯きがちになって、考えこんでいるようだった。 暫くして、彼女が先に口を開いた 「ごめん、ね」 俺に向けられた眼差しは、いつもより力のないものだった。ゆらゆらと揺れている。だけど口にする言葉は、しっかりと俺の耳に届けられる。 「逃げてばっかで……そんなカオさせて」 「そんなって?」 俺は首を傾げた。瀬戸はぎゅっと眉根を寄せると、また俯く。 「だって曽根、泣きそう」 「……ヒトのこと、言えねえだろ」 その指摘にぐっと詰まり、俺は無愛想に言い返した。カオの酷さに関してはお互い様だと思う。 俺は額に浮き出た汗を拭った。今頃になって、自分が汗だくになってることに気づく。 ホント必死だったんだな、俺。 俺のより全然細い瀬戸の腕。これを捕まえるために、俺は相当恥ずかしい勢いで学校中を走り回っていたんだ。もっとも、それを上回る必死さで逃げ回っていたのはコイツだけど。 吹き抜ける風が心地よかった。それに身を任せて、俺はずいぶんと気持ちが和いでいくのを感じていた。視線の先には肩をすぼめて立つ瀬戸がいる。時々、彼女の後れ毛が風にふわふわと揺れた。 「あのさ」 自分でも驚くほど、柔らかい声が出た。瀬戸がゆっくりと、顔を上げる。その目がきちんとこちらに向けられているのを見て、俺は話を続けた。 「あらかた、ハナシは聞いてたんだけど」 「やっぱり、あのケータイ繋がってたんだ。ずっと」 「ごめん」 ぼそりと返した瀬戸に、俺はすぐさま謝った。発案者は藤原でも、実際に盗み聞きしていたのは俺だ。だが、瀬戸は緩やかに首を横に振る。 |