その手をつかまえろ! 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 絶対に捕まえてやる。もう俺の頭ン中は、そのことだけでいっぱいだった。 ケータイ越しに聞いた会話の中で、瀬戸がどんだけ追い詰められてたかを知った――苦しかった。 それでも俺を好きだと言ってくれた――うれしかった。 だけど俺と顔を合わせた途端、また逃げ出した――びっくりして、少しムカついた。 そして今、俺はひたすらにアイツを――瀬戸を追っかけてる。こんなに必死になったのは、部活以外じゃはじめてかもしれない。 バタバタと打ちつける足の裏が痛い。上履きのままだから衝撃が緩和されないんだ。でもそんなこと気にしてられない。 どうしても今、瀬戸を捕まえたかった。 冷静に考えれば、相手は上履きのままカバンも持たずに逃げてるんだ。教室なり、昇降口なりで待ち伏せてればいい。でも、それじゃいけないんだ。そんな悠長なことをしてたら、俺はいつまでもアイツを本当の意味で捕まえられない。 今じゃなきゃ、ダメなんだ。 例えばヒットを打ちたいとか。相手のバッターを抑えたいとか。そういう、野球をやってるときに持っている『勝ちたい』っていう貪欲なキモチ。 なにがなんでも、がむしゃらに望む場所に向かっていく――そんな衝動。 あのとき、瀬戸を待たせた俺に足りなかったモノ。それはきっと、そういうモノなんだろう。 あの手を掴みたいと。振り向かせたいと。 立ち止まらせて、向かい合って、伝えて、分からせて。 俺は、瀬戸の笑顔が、欲しいんだ。 だから絶対。 「逃が、さねぇっ」 とにかく早くアイツに追いつくため、俺はスピードを上げた。時々足がもつれそうになるが、ンなのは無視だ。 すれ違う人間が、瀬戸を見て、俺を見て、一様に目を丸くする。よっぽど恐ろしい形相をしてんだろう、二人とも。明日には校内で噂になってしまうかもしれない。俺はそれでもいいけど。 頭の隅でそんなことを呟く。そして俺は瀬戸が人気のない裏庭に向かうのを見て、更に走るスピードを上げた。 * * * |