その手をつかまえろ! 2
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「早く行かなきゃ逃げられちゃうよ」

 見れば、瀬戸の姿は校庭のはるか向こうにあった。全速力で逃げてんな、アイツ。

 俺は無言で彼女が乗り越えた窓枠に足をかけ、振り返ってもう一度哲を睨み付けた。

「俺ねー」

 ヤツは全く動じることなく、堂々と俺の視線を受けとめる。

「お前にも思うところがないわけじゃないんだよ」

 哲が瀬戸とこの教室にいたときから、ヤツのケータイは俺のものと繋がっていた。だから、二人の会話の大部分を俺は聞き取ることができた。

 同じ科白を、哲は瀬戸にも言っていた。だけどこめられた意味は違う。

 俺がもっと早くに『答え』てやってれば、瀬戸がここまで追い詰められることはなかったんじゃないか。――つまり、そういう意味だ。

 俺は強くかぶりを振って、告げた。

「悪かった。……ありがとう」

 哲はぎょっとして後退り(礼を言ったのに失礼なヤツだ)、すぐに破顔した。そして俺を追い立てる。

「礼なら瀬戸を捕まえてから、たっぷり言ってくれ」

「おう!」

 俺はそれに片手を上げて応え、外に飛び出した。そして走りだす。

 後ろから哲の、大声援が聞こえた。


*  *  *


 瀬戸は物凄い勢いと形相で走り去って行ったらしく、その姿は見えないものの、行方を尋ねるとほとんどの人間が正確な位置を教えてくれた。どうやらまだ学校の敷地内には、いるらしい。でもあの様子だと、いつ外に行ってもおかしくない。

「何とか早く、捕まえねえと……」

 きょろきょろと辺りを見回しながら、俺はひとりごちた。そのときだ。

「冴香のバカー―っっ!」

 もうすっかり耳に馴染んでしまった絶叫が、少し離れた所から聞こえた。確かあっちには、運動部が給水で使ってる水道があったはずだ。

 俺はすぐさま、そちらに足を向けた。

「あら曽根」

 たどり着いた先には給水ポットを抱えた藤原が、何事もなかったように立っていた。俺はいい加減つらくなってきた呼吸を整えながら、彼女に問う。

「瀬戸、はっ!?」

「あっちー」

 やたらにやけた表情で、藤原は顎で瀬戸の行方を示した。そこには、どんどん小さくなっていくアイツの姿。

「どんだけ全力疾走だよ……!」

 もうホントに泣きたくなって、それでも俺は後を追おうと両足に力をこめる。

「まだ追っかけんの?」

「当たり前!」

 訊(き)く藤原に、即答する俺。

 これ以上引き離されるわけにはいかないので、俺は乱暴に言い置いてその場を去った。

「捕まえるまで、部活、行かねえからっ!」

「りょーかい!」

 おそらく満面の笑みで見送ってんだろう藤原の声が耳に届いた。



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