試す人、試される人 3
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 寝起きの間宮は結構カワイイと思う。ていうか、寝顔もカワイイ。一緒にいるようになってそこそこ経って、表情や仕種はすっかり男の人のそれになったけど、寝顔だけは別物だ。今もまだ記憶に鮮やかな高校生の頃に見慣れていた、やんちゃな子どもみたいな――そんな幼さを残した顔をこっそり眺めるのが、わたしは好きだった。

 勿論、そのことを本人に言ったことはない。口にも態度にも絶対出さないようにして、わたしは何食わぬ顔で彼の側にいる。だって、もしもそれを知られたら、間宮は絶対わたしをからかうだろうから。狼狽えて右往左往しているわたしを見て、満足げに――だけどどこか安心したように笑うのだ、あいつは。その笑顔が、どうにも癪に触ってしょうがない。

 多分、わたしはあいつに試されているのだと思う。本当に、わたしがあいつのことを好きでいるのか。『疑われてる』っていうのとは、また違う。ただ普段のわたしの反応が、あまりにも分かりにくいせいだろう。求められれば応えるけど、わたしが自分から『愛情表現』なるものをすることがほとんどないから。言葉でも態度でも表そうとしないから――だから、間宮は試すんだ。間宮の恥ずかしげもない言葉を意識して、戸惑ってるわたしを見て。間宮哲という人間が藤原冴香の中でどれくらいの割合を占めているのか、重要度を持っているのか――それを確認して、安心しているのだ。

 からかわれるのは不本意だし、悔しい。だから、そうやって試すような真似は止めて欲しいと思うんだけど。間宮がそうする原因がわたし自身にある以上、あまり強くも言えないでいるのが現状だ。

 昔からわたしの性格は恋愛事にはとことん不向きだった。ずっとずっと恋愛を、自分にとっては他人事だと考えてて。正直な話、そんなことで浮いたり沈んだりするのって馬鹿らしいと思ってたことさえ、ある。そんなわたしが、普通の女の子みたく可愛らしく恋愛できるのかって言ったら、それは無理ってもんでしょうよ。

 それでも一応、長く付き合ってきたおかげで、最近はだいぶマシになってきた。少しはそれらしく振る舞えるようになってきたと思う。まあ、他から比べたら物足りないと思われてるかもしれないけど、わたしはわたしなりに彼との付き合いを楽しめるようになった。だから以前は狼狽えてたあいつの言葉も、八割くらいは笑ってかわせるようになってきた。寝顔をカワイイと言えるくらいの余裕を持てるようになったのだ。

 でもね? 多分、その余裕――というか、油断が良くなかったんだと思うのよ。おかげで、わたしは久々に間宮の前で赤面する羽目になっちゃったんだから。


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