カレの友達 5
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 久しぶりに意識して背筋を伸ばし、視線を真っ直ぐに上げた。その先にいるのは、いつもみたいにのほほんとした笑みを浮かべるマミーの姿。

 ああ、この笑顔を見るのも久しぶりだなあ。

 そう思った途端、とても申し訳なくなってしまう。だけど、わたしはまっすぐに彼を見つめて言った。

「ありがとう、マミー」

「どういたしまして」

 全開の笑顔で、マミーは応えてくれた。わたしも思わず頬をゆるめる。

「すごいね、何か」

「何が?」

 唐突なわたしの科白に、マミーが首を傾げた。

「マミーは意外にいろんなこと、考えてるんだなあって」

「……それは褒められてるのか?」

 微妙にイヤそうに顔をしかめるマミーに、わたしは両手を振ってフォローした。

「だって、いつも曽根にイジられてるからさー」

 でも、タダのイジられキャラじゃなかったんだね。

 わたしがそう言うと、マミーはがっくりと肩を落とした。

「ひどいよなー。俺はただ大事な友達が二人とも、元気になってくれればと思って頑張ったのにー」

「あああっ! ごめん!」

 慌てて謝るわたしに、すっかりいじけモードのマミー。謝罪の言葉はすっかり素通りしているらしく、彼はぶつぶつ言い続ける。

「俺はさー、可哀想だからやめようって言ったんだけどー」

 ………はい?

「瀬戸がそんなふうに言うんだったらさー。俺も思うところがないわけでもないしー」

 間延びした口調で、だんだん不穏なことをおっしゃるマミー。わたしは嫌な予感ってヤツを全身で感じつつ、おそるおそる呼びかけた。

「マ、マミー……?」

 しかし、その声も届かない。

 マミーはとてもとても愉しそうに唇を歪めて(どう見ても悪役の笑いだ)、ケータイを取り出した。そして、出てきた科白が。

「タカー、美術室にいらっしゃーい」

「何ですとっ!?」

 ガッタンと盛大な音をたてて椅子を倒し、わたしは立ち上がった。それをマミーはニコニコしながら眺めつつ、説明する。

「女王様の命令だから」


 ………冴香っ!


 今頃高笑いをしながらマネジ業に勤しんでいるだろう彼女を思って、わたしは地団駄を踏んだ。いやそんなことより。

「曽根……来るっ!?」

「もともと会うつもりでいたんでしょ」

 青ざめるわたしに、呆れ気味に言うマミー。

 そうだけど! そうだけど!

「ハメられて会うのと、自分から会いに行くのとじゃ全然違うってばー――っっ!」

「……瀬戸?」

 ガラリ、と。

 音をたてて開いた入口に、わたしは絶叫したままのポーズで目を向けた。

 そこにいたのは当然。

「……曽根」

 会いたかった。でも今は来てほしくなかった。

 曽根隆志、その人だった。



  【続】

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