足りない、足りない 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「へ……」 何? と訊ねようとしたときには、既に腕を掴まれてた。そして、あれよあれよと言う間に家の中に引きずりこまれる。 ――背後でドアの閉まる音が聞こえた。 「ちょっ……成瀬っ?」 「あー、ちょっと待って」 「ひゃあっ」 言うなり、ぎゅっと抱きしめられて、わたしは狼狽する。すると今度は足元で、何かが落ちた音がした。 もしかして。 「成瀬、ケーキ落としたっ?」 「……あー」 ぎょっとして訊ねた声に返ってきたのは生返事。わたしは、じたばたと身を捩る。 「つぶれちゃったんじゃないっ?」 「いーよ、別に。食えれば」 「『いーよ』って、ちょっと……」 あんまりな返事の仕方に、わたしはがっくりと項垂れた。こっちが脱力したのを幸いとばかりに、成瀬は更に腕の力を強くする。ちょっと苦しくなって、わたしは思わず眉を寄せた。でも、イヤではない。少し強めの拘束が心地いいくらいだ。 そうして――しばらくの間、されるがままになっていたら不意に成瀬が呟いた。 「よし。充電完了」 そして腕を解き、こちらを見下ろした。その顔には、照れ臭そうな表情を浮かべている。 「ごめんな。急に」 びっくりしたろ? と首を傾げる彼に、わたしは曖昧に頷いた。確かにびっくりはしたけど、全然イヤじゃなかったし。――むしろ、嬉しかったくらいだ。 頬がゆるむのを抑えられずに、わたしはへにゃりと笑って訊ねた。 「足りた?」 たった半月。されど半月。足りなくなって、求めてたものは満たされたかな? 窺うように見上げると、成瀬がそっと苦笑した。逆に聞き返される。 「お前は?」 「半分、かな」 「半分かよ」 わたしの答えに、成瀬は軽く吹き出した。そして玄関に落ちたままの箱を拾い上げるため、身を屈める。その姿を見ながら、わたしは唇を尖らせた。 「だって、しょうがないでしょ?」 それくらい、足りなくて足りなくて仕方なかった。少しの時間でもいいから、会いたかった。 キモチが通じ合ってたって、側にいるのが当たり前になったって、まだまだ尽きることはないんだ。キミが大好きで、毎日だって会いたいと思う――欲張りなわたしの心。 ひょっとしたらウザイと思われてることもあるかもしれないけど、こればっかりは嘘をつけない。譲れない。 |