足りない、足りない 3
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「今から部活?」

「そう! 今日は午後だけなんだ!」

 はじめて会ったときから思ってたけど、ホント人懐っこい子だなあ。ニコニコと笑う彼と向かい合ってると、ついさっきまでの緊張が少し和らぐ。つられて口許をゆるめると、朗らかな笑顔はそのままに弟くんは首を傾げた。

「でも美希さん、確かデート中止になっちゃったんでしょ?」

「っ! 何で知ってるのっ?」

 さらりと問われた質問に、つい狼狽えた声をあげてしまった。相手は中学生だっていうのに情けない。急に火照ってきた頬を隠すように手をあてて半歩退がると、弟くんはやれやれとでも言うように肩を竦めてみせた。

「だって、そのせいで兄ちゃんの機嫌わりぃんだもん。自分がちゃんと勉強してなかったせいなのにさ」

「そ、そうなんだ……」

 や。成瀬の性格からして、ちゃんとやってなかったってことはないと思う。ちゃんと準備してて、それでも間に合わないくらい厄介な課題だったらしいから――少なくとも、わたしが説明されても理解出来ないくらいの。

 でも、機嫌悪いのか。それを聞いて、わたしの気持ちは少し沈んだ。ちょっとでも顔が見れたらなと思って来たけど、やっぱり邪魔になっちゃいそうだ。これで更に機嫌を損ねでもしたら、ご家族にも迷惑をかけることになってしまう。

 仕方ないや。胸中でため息をついて、わたしは気持ちを切り替える。このケーキは弟くんに渡してもらうことにして、このまま帰ろう。そう思い、わたしは箱を弟くんに差し出した。

「あのね、これ……」

「え、何? ケーキ? もしかして兄ちゃんに差し入れ?」

「うん。みんなの分も入ってるから、渡しといてもらえるかな」

「――何で? 会ってかないの?」

 わたしの頼みに、弟くんはきょとんと瞬いた。そして、心底不思議そうに首を傾げる。

「兄ちゃん、部屋にいるよ。上がってけばいいじゃん」

「や、だって邪魔になったら悪いし……」

「大丈夫、大丈夫! ちょっとくらいならヘーキだって!」

 しり込みするわたしに、お気楽な声で言う弟くん。彼はくるりと踵を返すと、玄関のほうに足を向けた。

「待ってて。呼んできてあげるよ」

「え!? や! ちょっとっ!」

 大慌てで呼び止めてみるものの、弟くんは止まらない。軽やかな足取りで家の中に戻って行き、――聞こえてきたのは大きな声。

「兄ちゃーん! 美希さんが来たよー!」

 ――はりきりすぎだよっ!

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