連鎖する僕ら 10 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「お前、覚悟しとけよ」 「う、ひゃあ」 声をあげて、肩を竦める瀬戸。それに構わず、俺は続ける。 「出発前日」 「――へ?」 「最後のデートの日」 「……うん」 「放してやんねーからな」 「っ!」 言うだけ言って、俺はすたすたと歩き出す。後に残されるのは、息を呑んで固まったままの瀬戸が一人。 歩きながらふと思い出したのは、俺を探してるらしい成瀬たちのこと。さすがにぼちぼち部室に顔を出さないと、本気で捜索隊を結成されそうだ。俺が消えて、瀬戸も消えて――そんな状況だ。いらない想像をするヤツが、絶対いるだろう。例えば、哲とか哲とか哲とか。 ぽりぽりと頭を掻きながら、俺はそのまま出入口に向かう。でも途中でやっぱり気になって、足を止めた。肩越しに、後ろを振り返る。その視界に入ったのは、真っ赤な顔で立ち尽くした瀬戸の姿。 遠目にも分かる潤んだ瞳と目が合うと――彼女はゆっくりと大きく口を開いた。そこから放たれたのは、天にも届く大絶叫。 「曽根のバカっ! えっちー―っ!」 前にもどっかで聞いたなぁ、その科白。 ぼんやりと思い出して、俺は笑った。ホント久々に、腹の底から。 「笑うな、バカ!」 怒りながら、瀬戸がぱたぱたと駆け寄って来た。少し離れた所で立ち止まって、こちらを見上げると、今度は頬を膨らませる。 「大体ひどいよ、曽根。わたしが迎えに来たのに置いてくなんて!」 「あー、悪い」 ひとしきり笑った後、俺はそう言ってようやく笑みを引っ込めた。目許を擦りながら見れば、瀬戸は未だに不機嫌そうなカオをしていて――でも、それすらも今の俺にはひどく愛しいものに思える。 (バカだよなー、俺も) そんな自分に自分でも呆れつつ――でも、その裏側で願うこと。それは。 側にいても、いなくても。彼女にはそうやって、いつも素直でいて欲しいってこと。 怒ることも、泣くことも――勿論、笑顔でいてくれるのがいちばんだけど。 素直なキモチのままに。我慢しないで。遠慮しないで。 キミが一人で抱えきれない思いは全部、俺が受け止めてあげるから。 |