連鎖する僕ら 10
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「……おーい?」

 さすがに途方に暮れた気分になって、俺は小声で呼び掛けた。横目で彼女の頭を眺めつつ、宥めるように肩を叩く。――と、不意にくぐもった声が聞こえてきた。

「――いいの?」

 少し湿り気を帯びた声。それを耳にして、俺はほんの少し眉を寄せた。それから訊ねる。

「何が?」

「わたし、そういうの……加減とか分かんないから。甘やかされたら、いっぱいメーワク掛けちゃうかもしれないよ?」

「今更だろ?」

 戸惑ったように返された答えに、俺は笑う。だってホントに今更だ。俺はとっくにそんなこと、覚悟してるっていうのに。

「勝手に我慢してたのは、そっちだろうが」

「うぅ……」

 意地悪く言ってやれば、瀬戸が悔しそうに呻いて顔を上げた。少し身体を離して顔を見合わせると、潤んだ瞳と目が合って、俺は目をすがめる。

(あー……くそっ!)

 このカオが見らんなくなるなんて……これから俺、色々と我慢出来んだろうか。そっちのが不安になってくる。

「……瀬戸」

 至近距離で呼び掛けると、彼女は急に慌て出した。視線をあちこちにさ迷わせて、勢いよく首を横に振る。

「ダ、ダメだよっ!」

「まだ何も言ってねぇけど」

 言いながら、抱き寄せる手に力を込めた。反対に瀬戸は腕を突っ張って、俺から距離を取ろうとする。

「瀬戸」

 もう一度、呼んでみる。だけど瀬戸はぶんぶんと首を振りながら、必死に言い募った。

「誰か見てたらどうすんのっ?」

「こんなとこ、誰も見てねぇよ」

「向こうの校舎から見えたもん! だから曽根のこと、見つけられたんだから!」

「どーせ最後なんだから、気にすることねえと思うけどな」

 だったら、今までのやり取りは見られても恥ずかしくないんだろうか。瀬戸の発言に矛盾を感じて、胸中で突っ込むが、彼女は全く気にならないようで。

「そういう問題じゃない!」

 壊れたおもちゃみたいに首を振りつつ、瀬戸は断固として拒否をした。どうやら余程のトラウマになってるらしい――桜の時季に教室でしたキスを、他人に見られてしまったことが。

「……わかったよ」

 無理強いしたって、仕方ない。俺は大きく息をついて、瀬戸の身体から手を放した。瀬戸は途端に心底ほっとしたように、胸を撫で下ろす。

(――おいおい)

 その反応はあんまりなんじゃねーの? 仮にも彼氏なんだからさあ。

 少しばかりむっとして――俺は再び、瀬戸の耳に唇を近づけた。そして、囁く。


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