連鎖する僕ら 10 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「さっきから何なのっ? ヒトのこと、バカバカって!」 「だって、そうじゃん」 「そうって……」 絶句した瀬戸が完璧に拗ねた目で、俺の顔を見上げた。むっとしたように尖らせた唇が、小学生みたいな反論をする。 「バカって言うほうがバカなんだよ」 「俺、『野球バカ』なんだろ?」 ニヤリと笑って言ってやると、瀬戸は更に声を荒げた。 「そうだけど! ソレとコレとじゃ意味が違う!」 抱き締めた身体が、その勢いのまま今にも暴れ出しそうで、俺は両腕の力を少し強める。――と、途端におとなしくなる瀬戸。 「曽根?」 おそるおそる問われる声に内心で苦笑して、俺は自分の口を彼女の耳元に寄せた。そして、腕の中でびくりと強ばった身体を宥めるように、出来るだけ穏やかな声で囁いた。 「お前さ、物分かり良すぎだよ」 「――へ?」 瀬戸が間の抜けた声をあげたが、それを無視して俺は続ける。ずっとずっと思ってた、コイツに言いたかったことを。 「もっとさ、言ってくれていいんだ。嫌だって思ったことも、変に遠慮しねーでさ。俺の知らないとこでグズグズ悩んだり、泣いたりしてんじゃねえかって……そうやって気を揉むくらいなら、目の前でいっぱいワガママ言ってもらったほうが、俺はいい」 「でも、それは……」 言い淀む瀬戸。俺は少しだけ彼女から離れて、その顔を覗き見た。困ったように揺れる両目をしっかり見据えて、告げる。 「メーワクなんかじゃねぇから」 お互いの間に何かあるたびに、繰り返してきた言葉。それを俺はもう一度、言い聞かせるように繰り返す。 「お前のことで、メーワクだと思うことなんかねぇよ。つーか、少しくらいメーワクかけてくれねえと困る」 「『困る』って……?」 瀬戸が怪訝そうに眉を寄せた。僅かに首を傾けて、俺を見上げる。そこに浮かぶのは、戸惑いの表情だけで。 (ホントにコイツは……) きっと夢にも思っていないに違いない。俺がこれから言うこと――俺が本当に、瀬戸の存在を必要としてるんだってこと。離れることを惜しんで、コイツをここに残してくことを怖がってるなんて――考えたこともないんだろう。俺が、彼女のことをどれだけ好きかなんて。 腹立たしいわけじゃねぇけど、何となくヤケクソ気味な気分で思う。自分の好意は素直すぎるくらい素直に伝えられるくせに、他のことになると急に遠慮しいになりやがって。それで、こっちがどんなにもどかしい思いをしてるのか――ここはがっつり解らせてやらなきゃならないだろう。 |