連鎖する僕ら 10 しおりを挟むしおりから読む目次へ その笑顔で、彼女は言った。 「野球がいちばんな、曽根が好き。一生懸命頑張ってる曽根がずっと好きだったから。カッコいいな、凄いなって思ってたから。だから、わたしもそんな曽根に負けたくないなって思って」 付き合う前から変わらない。瀬戸が告げる、真っ直ぐな言葉たち。それを正面から受け止めるのは嬉しくもあり、照れ臭くもあり――俺は居心地悪く、身動いだ。ガシガシと頭を掻いて、思わず他所を向いてしまう。 「……単に『野球バカ』ってだけだろ」 ぼそりと言うと、瀬戸がくすりと笑った。ちらりと見下ろしてみれば、やたら機嫌良さげに微笑む彼女がそこにいる。 「確かに『野球バカ』だけどね」 いたずらっぽい口調でそう言って、瀬戸は笑みを深めた。さっきまでの不安気な表情はどこへ行っちまったのか。こちらがぽかんとしてしまうくらい、彼女は屈託なく笑ってた。それに少しずつ、俺の中の何かが満たされていくのが分かる。 「でも、やっぱり曽根は凄いよ。そうやって自分の好きなこととか、やりたいこととかに真っ直ぐ向かっていけるの。そのために、ちゃんと進んで行ける力があるの。わたしはそれに追いつけなくて、寂しくて、不安になることもあるけど――でも、嬉しいんだ。曽根が頑張ってるの見てると、わたしも頑張りたくなってくる。曽根にとっての野球みたいな……そういうもの、わたしも見つけたいなって。そうやって、わたしはわたしで頑張って、曽根のこと、待ってたいなって思うんだ」 ホントだよ? ――そう言って、こちらを窺うようにして見上げる瀬戸。その姿がやけに眩しく映って、見ていられなくて。俺は慌てて、空を仰いだ。下は絶対に向けない。瀬戸と目が合うのが照れ臭いのもあるけど、でも今はそれ以上にマズイ。 (――やべ) 両目の奥が、じんとした。ただでさえ、さっきまで弱っていた俺に瀬戸の言葉は優しすぎた。じわじわと、その優しさが胸の中に染み入ってくる。 「――曽根?」 訝しげな声が、俺を呼ぶ。だけど、俺はすぐに答えられなかった。不自然なくらい間を空けて、そうしてやっとどうにかして、声を発することができる。 「お前、さ」 「なに?」 「――ホントに馬鹿だろ?」 言うやいなや、俺は再び瀬戸を抱き締めた。急な行動に驚いて、瀬戸は短い悲鳴をあげる。そして、すぐに文句を言う声が聞こえてきた。 |