連鎖する僕ら 10 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「だって、困るもん。これから曽根と離ればなれになるのに、甘え癖がついたままじゃダメでしょう？ わたしだって……負けたくないし」 「『負けたくない』って？」 一体、いつから何が勝負事になったのか。話の展開についていけず、俺は思わず眉を寄せた。コイツのこういう要領の悪い話し方は、付き合う前から変わらない。なので、それほど察しの良くない俺としては困るときもあるわけで――まあ、今がまさにそのときなんだけど。首を傾げて瀬戸を見下ろすと、彼女はさっきまでとはうってかわった様子で、きっぱりとした口調で言った。 「曽根に、負けたくないの」 「俺に？」 ますます意味が分からない。別にイライラしたわけじゃないけど、眉間の皺が深まったのは確実だ。抱き締めていた腕を解き、俺は片手で頭を掻いて、もう一度聞き返す。 「俺に、何を『負けたくない』って？」 「いろいろ」 返ってきた答えは、物凄く端的なものだった。瀬戸はあっさりと答えると、俺から身体を離して、真っ直ぐな姿勢で立つ。それからまた、俺を見上げた。久しぶりに見る、何の翳りもない視線。それを俺に向けたまま、瀬戸は口許に弧を描いた。そして少し自嘲するようにして、口を開く。 「――ホントはね、嫌だなって思ったよ」 ふと視線を落として告げられた言葉に、胸が詰まった。はじめて瀬戸の口から聞く、瀬戸の本音だ。俺はそれを一言も聞き漏らすことのないように、彼女の言葉に耳を傾ける。 「寂しいなって思ったし。不安、だった。大丈夫って言い聞かせても、ホントにちゃんと付き合っていけるのかなあって。ずっと、いつも隣にいたから……それが当たり前だったから、そうじゃなくなったらどうなっちゃうのかなって。やっぱり、今も不安だよ」 「……うん」 たどたどしく伝えられる、彼女の気持ち。俺はそれを頷きながら、受け止める。何となく視線が下を向いてしまい、視界から瀬戸の姿が消えた。足元だけを見て、俺は彼女の言葉を待つ。 「でもね、やっぱり好きなんだ」 次に聞こえた、瀬戸の声。ぽつりと言ったその声が、あんまり柔らかかったから――俺はぱっと顔を上げた。そして、彼女と目を合わせる。 目が合った瀬戸は、笑っていた。ここ最近、すっかり目にすることのなかった明るい表情で。余計な力が入っていない、へにゃっとした自然な――俺が、いちばん好きな顔で。 |