連鎖する僕ら 10
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 ――大学、県外の受けるから。


 野球を続けたくて。でも野球だけじゃ駄目だと言う親を納得させるため、あちこち探した俺が志望したのは他県の大学だった。それは、俺がこの街から出ていくことを意味していて。そして同時に、瀬戸と離れることも意味していた。

 別れるつもりなんて、これっぽっちもなかったけど――でも、『別れたい』と言われても仕方ないとも思ってた。俺はすごい勝手なヤツだ。瀬戸に寂しい思いをさせるのを知っていて、それでも違う場所で過ごす道を選んだんだ。自分が好きなことをする道を。

 それを諦めて、地元に残ることだって考えなかったわけじゃない。カノジョの存在で進路を決めるなんて馬鹿げてるとは思うけど、俺だってコイツと離れて全然ヘーキなわけじゃないんだ。

 瀬戸がいつも笑って応援してくれたから――だから、俺は頑張れた。野球、まだまだ続けたいって思えた。だから居心地のいい場所を捨ててでも、選んだ道を歩いてこうと思えたんだ。

 俺がそれを告げたとき――瀬戸は一瞬、瞳を揺らした。唇を噛みしめて、一呼吸おいて。それから、にっこりと笑ってみせた。今もまだ憶えてる――色んなものを無理矢理飲み込んで作った、不自然な笑顔。そうして、言ったんだ。『頑張ってね』って。

 正直なハナシ――それは泣かれるより、怒られるより、つらかった。何で? って問い詰められたほうが、よほど楽だったように思えた。実際に泣かれでもしたら、きっと物凄く困ったはずなのに――それを瀬戸は判ってたんだろうけど。でも、そんなふうに思った。俺は本当に身勝手なヤツだ。

 それからは、瀬戸はいつも笑ってた。『別れなくていいなら、大丈夫だよ』と言って、『頑張ろうね』って口癖みたいに呟いて。俺の前では出来るだけ、笑顔でいようと頑張ってたみたいだった。とはいえ、根が馬鹿正直な瀬戸だ。抱えた気持ちを全部隠し通すなんてこと、出来るわけもなくて。

 ふと後ろを振り返ったときに見える寂しげな表情が、日に日に増えていった。誰にも見られないようにこっそりと、ため息をつくことが多くなった。そのことに気づいて、俺は出来る限り側にいたけど。手を伸ばしたけど。

 けれど、瀬戸は言葉で弱音を吐くことはしなかった。伸ばした手も、『大丈夫だよ』ってやんわりと断られたこともある。自分のことは気にするなと言わんばかりの彼女の態度に、俺は自分の情けなさを思い知った気がした。


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