連鎖する僕ら 10 しおりを挟むしおりから読む目次へ 表情に出た疑問が、そのまま伝わったのか。瀬戸はもう一度自分を落ち着かせようと深呼吸をして、説明のために口を開いた。 「野球部の送別会、もう始まってるのに……曽根が来ないって、成瀬くんが心配して電話くれて」 「ンなの、ケータイ鳴らせば済む話、」 「そのケータイが繋がらなかったの!」 俺の言葉を遮って、瀬戸がぴしゃりと言い放った。瞬間、俺は目をぱちくりとする。 「は?」 「だから、何度もかけたのに繋がらなかったの」 二度目はさっきより静かな――というより、拗ねたような口調で言われた。なので、俺も冷静になってポケットを探る。 そして、取り出したケータイを見てみれば。 「あー……ゴメン」 瀬戸が上目遣いでこちらを見た。 「電源、切ったままだった」 「やっぱり……」 瀬戸ががっくりと項垂れる。いつものおだんご頭が解れてるように見えて、それだけで瀬戸がどんだけ慌てて俺を探してたのか――何となく、想像がついた。俺はやれやれと肩を竦めてみせる。 「だからって、そんなに慌てて探しに来なくても……」 「だって荷物もなかったし。ホントに帰っちゃったのかと思って」 「約束してたのに?」 呆れた声で訊ねると、瀬戸は項垂れたまま、小さく小さく呟いた。 「……そう思っちゃったんだもん」 それは実に久しぶりに聞く、彼女の甘えるような声。 「……ハイハイ」 やっとかよ。そう思って、俺はその小柄な身体を引き寄せた。それは何の抵抗もなく、俺の腕の中に収まる。 瀬戸は照れるような素振りもなく、居心地のよい場所を探すみたいにして、少しだけ身動いだ。胸元に額を押しつけて、大きく息をつく。それから、両腕を俺の背中に回した。 「随分、頑張ってたじゃん」 囁くように落とした俺の言葉に、瀬戸の肩がぴくりと揺れた。抱き締める腕に力を込めて、俺は意地悪く訊ねる。 「予行演習のつもりだった?」 わざと俺に甘えないようにしてたの。――そう訊ねると、瀬戸は弾かれたように面を上げた。そして、左右に首を振る。 「そんなことないよ」 「あるよ」 俺は静かに否定した。瀬戸が窺うようにして、こっちを見る。その視線を無視して腕の力を強くすると、彼女の苦しそうな声が聞こえて――俺は口の端を吊り上げた。 |