連鎖する僕ら 10
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 やってみりゃ、案外たいしたことはないのかもしれない。どうにでも、なるのかもしれない。だから、わざわざ今からそんなことを心配する必要なんてないんだろう。けれど現実に卒業した今になって、俺は立ち竦んでいる。自分が決めた道の始まりで。

 まったく今更な話で、自分でも情けねえなと思う。決めたのは、自分だ。ただ野球を続けたくて、でもそれだけじゃ満足出来なくて――あれこれと模索した上で、生まれ育った街を離れることを決めたっていうのに。俺は今になって、惜しんでる。今になって、怖がってる。

 先に進むために、置いていかなければならないものが沢山あって。俺の知らない間に、それが変わってしまうこと。あるいは消えてしまうことを、はじめて怖いと思ってるんだ。

(――らしくねえよな……)

 今更、ンなこと考えたってもう変更はきかないし、変えるつもりも毛頭ないってのに。俺は自嘲するように笑って、両目を伏せた。――そのとき。

 扉の向こうから、誰かが階段を駆け上って来る気配がした。

「っ! い、たぁ……っ」

 勢いよく開け放たれた扉。騒がしい音と一緒に屋上に飛び込んできたのは。

「……瀬戸」

 俺は茫然と、その名を呼んだ。視線の先で苦しそうに呼吸を整えているその人物は誰であろう、俺のカノジョの瀬戸初璃。

 ずっと走ってきたんだろう。瀬戸は膝に手をついて、上がってしまった呼吸を落ち着かせている。そして、恨めしそうにこっちを見た。

「曽根ぇ……」

 呻く声まで恨めしげだ。その微妙な迫力に若干後退りたい気分になって、俺は乾いた笑みを浮かべる。

「えーと……どうした?」

「『どうした?』じゃないよっ!」

 俺の飛ばした疑問符に瀬戸は非難の声をあげて、つかつかと歩み寄ってきた。そして、言うことには。

「勝手に黙っていなくなんないでよ! 探しちゃったでしょ!」

「――って、お前……」

 あまりに激しい怒りっぷりに、俺は思わず眉根を寄せた。一体、何だ? そりゃ、一緒に帰る約束はしてたけど。お互い、部活の送別会に顔を出す予定だったはずだ。それが終わったら教室で待ち合わせって、そういう約束になってて。予定通りなら瀬戸は今、美術室に行ってるはずなんだから、ここまで怒りに来ること自体、俺にとっては不可思議な話なんだけど。


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