連鎖する僕ら 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「わたしも! 一緒がいい!」 やたら元気のいい声でそう言って、綾部は恥ずかしそうに笑った。その笑顔に、俺は見惚れてしまって。 無意識に彼女の頭上にあった手でそのまま、髪に触れた。その柔らかさに目眩がしそうな気分になる。 (理性理性理性……) 同じ失敗はするまいと心に誓ったばかりだ。単語ひとつを頭の中で繰り返し言い聞かせて、俺はひたすら自分と戦う。もっとも、その時点で色々とダメな状態ではあるのだが。 とりあえず手を離そう。そうしよう。そう思いながら、俺は懸命に努力した。だが、それはあっさり無駄になる。 綾部が、目を閉じたからだ。 (おいおいおいっ!) ここで空気を読んでくれたことに喜ぶべきなのか、何なのか。もう俺には分からない。でも両目を閉じて無防備に待っている綾部の顔は、数瞬前の俺の決意を簡単に崩してしまい。 俺は彼女に触れるため、そっと近づいていった。 ――のだが。 「……おでこ?」 二人の間に再び距離ができた後、最終的に俺の唇が触れた自分の額を撫でながら、綾部が不思議そうに呟く。俺は赤くなった顔を見られないように(もう既にムダな気はするが)、あさっての方向を見て告げた。 「……ちょっとずつな」 それは、あくまで彼女のペースに合わせたかのような科白。だけど、実際は違う。 言えない。絶対に言えない。 唇に触れる前にこの間の苦い記憶がよみがえって、慌てて方向転換したなんて。 また避けられたらとか考えて、ビビっちまったなんて。 (情けなさ過ぎて、絶対言えねえ……!) 笑いたきゃ笑え。どうせ俺はヘタレだよ、ちくしょー! なけなしの根性で無表情を作り上げ――でも内心は情けなさのあまりに泣きたい気分で、俺は傍らの綾部に目をやった。 そして視界に収まったのは、両手を額に当てて、溶けちまいそうなカオをしている彼女の横顔。 それを見て「ま、いいか」と、すぐに笑っちまった俺はやっぱりまだまだ子どもなんだろうなと思った。 少なくとも、不器用なこの彼女と同じくらいには。 【続】 |