連鎖する僕ら 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「俺は、お前に嫌われたかと思った。そこまでいかなくても、幻滅されたかと思った」 あの夜の自分の気持ちを――綾部に触れたいと思った衝動を、否定する気はない。普段の俺らしくないやり方をしたって自覚はあるけど、仕方ないとも思ってる。でも、その反面で不安だったのも事実で。 「だから気まずくなって……どうしていいか、分かんなくなった。お前が今日来てくれなかったら、何も話せないまま冬休みに入ってたかもしんない」 「そんなこと……」 「あるんだよ。俺はそんなに褒められるほど、器用じゃないよ」 そりゃ綾部に比べればマシかもしれないけどさ。 胸中でひとりごちて、笑みを深めた。見れば、綾部は納得のいかないような面持ちで首を捻っている。 「そうは見えない」 「ま、俺にもプライドはありますから」 好きな子相手にカッコ悪いところは見せられないだろ、やっぱ。 肩を竦めてそう言ったら、綾部は恥ずかしそうに目を逸らした。その仕種を横目に、俺は缶を開ける。一口飲んで人心地ついて――それから、ぽんと綾部の頭を叩いた。 「何っ?」 小動物みたいに、綾部は身体を震わせた。こちらを見上げてくる瞳は、まだどこか不安気におどおどしている。それを打ち消してやりたくて、俺は彼女の頭に手を置いたまま、ゆっくりと口を開いた。 「前も言ったよな? 綾部は綾部だろって」 「……うん」 一瞬きょとんとしてから、綾部は頷いた。それは俺たちがちゃんと向かい合って話したあの日――俺が彼女に言った言葉のひとつ。 生真面目な表情で、それを反芻している様子の彼女を見つめながら、俺は続けた。 「他の誰かと比べることなんてない。お前はお前のペースでやってけば、いいじゃんか」 「でも、それじゃ成瀬がまたイヤな思いするかもしれないよ?」 「イヤな思いなんてしてないよ」 若干へこみはしたけどさ――心の中で舌を出して、俺は笑った。 「お前のペースに付き合うのなんて、とっくに覚悟済みだったし。つーか、俺だってそういう方面は器用でもないし」 だから突発的な行動で、彼女を驚かせてしまうこともある。その辺はまあ、お互い様ってことで。 「……いいの?」 それでもまだ自信無さげに訊ねてくる綾部。特別な意識もなくされる上目遣いに、また俺が参ってるなんてこと、こいつは全然気づいてないんだ。本当にタチが悪い。だけど、それでも。 「俺はお前と一緒にいるのがいいんだ」 待たされても、逆に煽られても――時々自分を見失って、自己嫌悪に陥ることがあっても。 俺はこの子と一緒にいたい。 「……お前が嫌じゃなければな」 窺うように首を傾げて見下ろすと、綾部はぎくしゃくとひとつ頷いた。 |