連鎖する僕ら 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「何でわたしなのかなって、思ったの」 小さな声で、彼女は続ける。 「成瀬は頭もいいし、物知りだし、優しいし。みんなから頼りにされてて、すごいなって思うんだ」 「うん」 「そういうすごい人が、わたしと付き合ってること自体……何か、最近不思議に思えてきて」 「不思議って、」 俺は呆れた口調で言う。 「お互い、好きだから付き合ってんでしょー? それを今更……」 「だって、わたし何もしてないんだよ?」 俺の言葉に被せるように、綾部さんが言った。今までにない彼女の勢いに、俺は目をぱちくりとさせる。 「え、と……?」 「わたし、成瀬に好かれるようなこと、何もしてない。付き合う前も付き合ってからも、変な質問して困らせたり、びっくりさせたり……そういう変なことしかしてないの。それなのに成瀬が、こないだ……」 そしてまた、もごもごと口ごもる綾部さん。その様子を見ながら、ようやく俺は「なるほど」と彼女の言いたいことを理解した。 つまりは、だ。 「成瀬があんまり立派なヤツだから、綾部さんは引け目を感じてると」 「……うん」 「自分のどこを好きになってくれて、そういうことをする気になったのかが分からなくて、不安になってると」 「うん」 至極真面目な表情で頷く綾部さん。そんな彼女に俺は首筋をぽりぽり掻きながら、軽い調子で告げた。 「考えすぎじゃない?」 「え?」 「そんなこと、気にする必要ないでしょう。だって結局、成瀬のヤツ、綾部さんにそういうことしたいくらい、綾部さんのことが好きなんだろうからさ」 「そ、そういうもの?」 俺の言葉に、綾部さんが顔を赤らめてたじろいだ。何だか俺まで恥ずかしくなってきて、彼女から目を逸らす。 「どうしても知りたいんなら、それこそ本人に訊いてみればいいじゃん。成瀬なら、ちゃんと真面目に答えてくれるでしょ」 我ながらもっともなことを口にして――それから肩を落とした。 (俺、何でこんなこっぱずかしいこと話してんだろ……) しかも、友達のカノジョ相手に。こっそりと嘆いて、ため息をつく。何かいつも、こんな役回りだよなぁ。他人のことばっか取り持って、自分のことはちっとも上手く進まない。何となく落ち込みの坂を下りつつ、首にやっていた手をポケットに突っ込んだ。そして半ば恨めしい思いで、廊下の先に目を向ける。 |