連鎖する僕ら 4
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「綾部さんは、そう思わないわけ?」

 俺にこんな質問をしてきたってことは、綾部さんは成瀬に『されそうになったこと』に対して、納得していないってことだ。多分、拒否して――それで気まずくなったんだろう。だとしたら、俺は成瀬に同情するぞ。付き合い始めて、一年以上経ってるんだ。ここでお預けをくらわなきゃならない理由が分からない。

 そう思い、少しきつい視線を向けてみる。すると綾部さんは困ったように、眉根を寄せた。

「や、何ていうか」

 言って、彼女は苦く笑う。

「成瀬がどうこうっていう問題じゃなくてね。わたしがそういうことされるとか、するとか……何かピンとこなくて」

 実感が湧かないんだよねと、綾部さんは軽く目を伏せた。その言葉に納得がいかなくて、俺は口許を歪める。

「だって、付き合ってんでしょ?」

「そうだけど……」

 俺の発した問いに、言い淀む綾部さん。何で、そこで口ごもる必要があるんだろう。さっぱり訳が分からない。そう思って俺が首を捻ると、綾部さんは廊下の向こうを気にするようにして口を開いた。

「成瀬ってさ、モテるでしょ?」

「……そうみたいだね」

 ぶつけられた唐突な問いに、俺は肯定の言葉を返した。成瀬のヤツは男女問わず、それこそ年上年下も問わず、人気のある人間だ。今だって、俺の知らない女子とにこやかに話してる。相手の子が楽しそうにしてるところをみると、好意を持たれていることは明らかだ。

 成瀬は勉強が出来て、部活でも主将として活躍してた――いわゆるモテる類の人間。これを少しでも鼻にかけるようなヤツだったら、たとえ部活仲間とは言っても、俺がつるむことはなかっただろう。けど、成瀬は違った。あいつはホントに、いいヤツなんだ。むしろ人が好すぎなんじゃないのって、こっちが心配になるくらい。そうでなければ、自分のことだけでも忙しいこの時期に、俺の勉強の世話まで焼けないだろう。

 だから、成瀬はいいヤツだ。あいつがモテるのも納得できる。いつだったか藤原も言ってた。ウチの部の一番人気はあいつだって。俺だって自分が女だったら惚れてると思う、多分。

 でも、それと今の話がどう関係あるんだ? 俺が視線だけで問いかけると、綾部さんは俯き加減でぽつりと言った。


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