連鎖する僕ら 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「まさか」 まさかまさかまさか。 「浮気現場はっけーん、とか?」 「ち、違う違うっ!」 成瀬のいるほうを指して訊ねる俺に、綾部さんはぱたぱたと両手を振って否定した。おもちゃみたいなその動きに、俺は思わず口許をゆるめる。 「間宮くん?」 綾部さんが怪訝そうに眉を寄せたが、俺はそれを適当にかわして、代わりに訊ねた。 「じゃあ、何でこんな所に隠れてんの?」 他に思い浮かぶ理由としては、あとひとつ。 「ケンカでもした?」 出来るだけ軽い口調で訊ねると、綾部さんは不自然に目を逸らしてモゴモゴと口を開いた。 「ケンカじゃ、ないんだけど……」 そう言う綾部さんのカオは、何だか赤い。俺はそれを眺めながら、内心で「ははーん」と嘯いた。口許ににんまりと弧を描く。 そして、我ながら意地の悪い笑みを浮かべて言ってみた。 「もしかして、押し倒されたとかー?」 「違っ!」 全力で否定しようと大声をあげて――だけどすぐに綾部さんは慌てて、自分の口を塞いだ。そして、やたら素早い動きで廊下の向こうの成瀬に目をやった。 成瀬はさっきと変わらず、俺の知らない女子生徒と話を続けていた。こっちの騒ぎに気づいた様子はない。ないけど、綾部さんは心底恨めしそうに、こちらを見上げてくる。 「間宮くんっ!」 「いやだって、すげー挙動不審だからさぁ」 そう言って、俺は肩をそびやかす。すると綾部さんは拗ねたように唇を尖らせた。 「……押し倒されたんじゃないもん」 「んじゃ、どうしたの?」 明らかに他のことならされたと言わんばかりの口調で答えられて、俺はつい反射的に訊ねてしまった。これ以上、突っ込まれるとは思ってなかったんだろう。綾部さんはびっくりした顔で固まっている。 (あちゃー……) また、やってしまったらしい。よく滑ると評判の、俺の口は。 さすがに怒るだろうなぁと思って覚悟を決める。友達のカノジョに対しても、この失礼ぶり。これは、後で成瀬にも説教されるに違いない。 だけど、綾部さんは怒らなかった。そのかわり何だか神妙なカオをして、じっとこちらを見上げてきた。顔の赤みはもう引いている。俺はその視線に気圧されて、頬を引きつらせた。 「綾部さん……?」 おそるおそる問いかける。綾部さんは意を決したように大きくひとつ頷くと、口を開いた。 |