連鎖する僕ら 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 最初から、別に機嫌は悪くない。ただ少し――いや、かなり気まずいだけで。 ぼそぼそとわたしは答える。――と、急に目の前が陰った。足を止めて顔を上げれば、やけに神妙な表情をした間宮がこっちを覗き込んでいて。 「やっぱ、困ってるよな」 そう言って、首を傾げて苦笑した。 「迷惑だった?」 「迷惑っていうか……」 優しく見下ろしてくる視線に戸惑い、身をすくませた。落ち着かない。どこかに逃げ出したい。けど反面で、そうしたくない気持ちも確かにあって。わたしはその思いだけで、何とか口を開いた。 「正直、よく分かんなくて」 好きだと言われて、それから沸き起こってきたのは『何で?』という疑問符ばかりだった。ヒトに好かれて嬉しくないわけじゃないし、その気持ち自体を迷惑だと感じているわけでもない。まぁ、何もこの忙しい時期に言わなくてもよかったんじゃないの? と思わなくもないんだけど。それに関しては、返事を急かされているわけではないので、文句も言えない。 ――受験が終わったら、考えて。 間宮は確かにそう言った。だから、わたしもそうしたいのは山々なんだけど。でも人間の思考回路っていうのは、そう簡単に割りきれるものでもないようで。 わたしがまた悶々と考え込んでいると、間宮が困ったような口調で言う。 「意外に不器用だよね、冴香さんって」 「誰のせいだと……!」 「や、まあ、俺のせいだけどね」 間宮はそう言うと、悪びれなく笑った。その顔があんまり楽しそうで、もっと文句を言ってやろうとしていたわたしは思わず口をつぐんでしまう。 どうにも居心地が悪くなって、わたしは間宮から顔を背ける。すると隣から、低い声が聞こえた。 「……ごめん」 ぽつんと、静かに落とされた言葉。それに驚いて、わたしは慌てて彼を見た。視界に入ったのは、ぼんやりと前を見ている横顔。白い息を吐きながら、間宮はぽつりぽつりと話し出す。 「俺さ、前は言えなかったじゃん? ……ていうか、自分で言わないって決めたんだけどさ」 |