連鎖する僕ら 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「野球やりてーなあ……」 うっかりこぼしてしまった、本音。やばいと思ったときには、哲も成瀬もまじまじと俺を見つめていた。 哲が口を開く。 「出来るでしょー。春になったら」 「そうだけどさ」 無事合格して、春になれば――俺は自分の望んだ通り、また野球に打ち込むことが出来る。でも今言ってんのは、そういうことじゃなくて。 「体、動かしたいんだよ……やっぱ動いてねぇと調子出ねぇし」 だから、つい思考が後ろ向きになっちまうんだ。こんな調子じゃ、上手く行くはずのことだってダメになるに違いない。 まとわりついてる重苦しい空気を振り払おうと、俺はガシガシと頭を掻いた。ついでに立ち上がって、伸びをする。 ――決めた。 胸の内で呟いて、俺は荷物を手に取った。 「帰んの?」 そう訊ねてくる哲に、口の端だけで笑ってみせる。 「帰んねえよ。行ってくんだ」 グラウンド。俺がそう告げると、成瀬は呆れたように言う。 「グラブないだろ?」 「予備のが置いてあんだろ。なけりゃ、誰かの借りるし」 「うわ、先輩が『俺様』だよ」 あいつらかわいそーと、哲が後輩たちを庇う声をあげた。でも、その表情は何だか楽しそうだ。手元を見れば、既に問題集は閉じられていて。 「……いいのかよ?」 見咎めた成瀬が問うも、哲は能天気な口調で言い切った。 「いーのいーの! だって、もう勉強する気分じゃないもん」 「そこを何とかして勉強するのが、受験生の勤めだと思うんだが」 「お前が落ちても、俺は責任持たないぞ」 口々に釘を刺す、成瀬と俺。しかし哲はまったく意に介さずに、勉強道具を手早く片付けると、俺たちを急かし始めた。 「ほらほら! 早くしないと日が暮れちゃうって!」 「……マジで知らねーからな」 頭を抱えながら、それでも成瀬は後に続いた。何だかんだで付き合いのいい奴だ。いや、単なるお人好しか。 込み上げる笑いを堪えて、俺も二人の後を追う。この時期に練習に乱入されちゃ、後輩たちもいい迷惑だろうが、今日は大目に見てもらおう。 一瞬だけ『頑張る』のをやめて、立ち止まって。 頭ん中をクリアにして――それから、あいつに会いに行こう。あいつの、あいつらしい笑顔を取り戻すために。 【続】 |