連鎖する僕ら 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 元々、俺と瀬戸の進路は違っていたから――進学先が別のところになるのは、分かりきったことだった。それでも同じ県内で暮らしてるのと、そうでないのとでは状況は全然違う。会う約束ひとつ果たすんだって、金も時間も掛けないと出来ないような距離になる。まぁ勿論、ちゃんと合格したらの話だけど。 不安にさせてるんだろうと思う。でも俺はどうしても、まだ野球をやっていたかった。だから諦めることも、妥協することもできなかった。そして野球にも将来に関わる勉強にも、ちゃんと取り組める場所――それを探したときに見つけた所が、たまたま県外の大学だった。 『野球を続けたいから』と告げた俺に、瀬戸は『頑張れ』と言って笑ってみせた。でも、その笑顔はいろんな複雑な思いを飲み込んで浮かべた、不自然なものだった。いつもあいつが浮かべる、力の抜けた柔らかい表情とは全然違う。そんな顔をさせちまってることが、俺は堪らなく悔しかった。でも、決めたことを覆す気はなかったし――そもそもそんなことしたら、瀬戸はすげー怒るに決まってる。だから、そのときはそれ以上、何も言えなかったんだけど。 結局、それから俺たちは何となく遠慮がちに接するようになってしまった。一緒に勉強したり、帰ったり――今まで通り同じ時間を過ごしているけど、何かしっくり来ない。時々、気遣ってはみるものの、瀬戸は『大丈夫だよ』って笑うだけで。 (――そうじゃねぇっての!) その笑顔を思い出して、俺は呻いた。俺が見ていたいのは、そんな表情(かお)じゃない。寂しいとか、苦しいとか、そういう気持ちを無理矢理飲み込んだような、そんな悲しい表情じゃない。だけど、こればっかりはどうしようもなくて。 瀬戸を不安定な気持ちにさせちまったのは、俺のせいだ。それでも――やっぱり、いつも通り笑ってて欲しいと思うのは酷な話だろうか。 また鬱々とした気分になって、俺は窓の外へと目をやった。去年の今頃は走り込んでたっけか。冬は俺たち野球部にとって、春に向けて肉体を作る大事な時期だ。後輩たちも今頃、グラウンドを走り回ってるんだろう。羨ましい限りだ。 |