カノジョの友達 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 死んだ人間には勝てない。 そう思ったときに、きっと『答え』は決まっていたんだ。 避けられている。 昼休み。教室のどこにも見当たらないアイツの姿を探して、俺は嘆息した。 アイツっていうのは、言わずと知れた瀬戸初璃。同じクラスであるにもかかわらず、この数日間アイツとはほとんど顔を合わせていない。授業のときだけなんだ、瀬戸が教室にいるのは。後は休み時間のたびにどこかへ行って、放課後はすぐに帰ってしまう。これが最近の瀬戸の行動パターンだ。――理由は明白。こないだの先輩の話を、俺に聞かれたせいだろう。できるだけ、俺やあの場に居合わせた人間と会わないように、瀬戸は逃げ回っていた。 そして、俺はというと。こうやって視線をめぐらせて探しはするが、アイツを追いかけるほどの気力はなくて。今も机に片肘をついて、ぼんやりとしていたところだ。 教室のそこかしこで見られるクラスメイト達の笑顔が、まるで別世界の光景に思える。何日か前まではそっち側にいたんだ、俺も瀬戸も。 くだらないことで笑って、騒いで。 「曽根」 無表情に俺が物思いにふけっていると、斜め後ろから声が掛かった。女の声。だけど瀬戸じゃない。 「ンだよ、藤原」 俺は振り返ることなく、それに応える。 藤原冴香。隣のクラスで瀬戸の親友。そして野球部マネジ。部内での通称は『女王様』。 藤原はソレらしく、実に偉そうな口調で言い放った。 「ちょっとカオ貸しな」 「……ガラ悪(わり)ぃな」 さすがに振り向いてツッコミを入れた。しかし藤原は気にした様子もなく、更に命令する。 「何でもいいから付き合えっての!」 「もう昼休み、終わるぜ?」 俺は顎をしゃくって壁に掛かった時計を示した。予鈴がなるまで、あと五分もない。どうせややこしい話をしに来たんだろう。こんなハンパな時間で終わるわけがないんだから、今は諦めろ。俺はそう言って、藤原を追い返そうとした。 俺だって、あの場にいた人間と顔を合わせたくない。その気持ちを知ってるから、俺は瀬戸を探しはしても追いかけずにいるんだ。だけど、藤原は静かに俺を見下ろして、ポロシャツの胸ポケットから鍵を取り出した。 見覚えのあるソレは部室のもの。 ソレを彼女はちゃりちゃりと鳴らす。すべてお見通しだとでも言うように。 |