連鎖する僕ら 1
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 心地好い感触に目を閉じようとした、そのとき。視界の隅で何かが光った。顔を上げて見てみれば、机の片隅に追いやられていたケータイが着信を告げている。

 その音と光の点滅が知らせる相手は、たった今まで考えていた人のものだ。

「……もしもし?」

 耳に当ててそう問えば、低い穏やかな声が聞こえてきた。大好きな人の、大好きな声。

『おー、俺』

 ケータイの向こう側、曽根がからかうようにして訊ねてくる。

『ちゃんと勉強してたか?』

「してたよー。ちゃんと机に向かってたもん」

『向かってるだけじゃ意味ねぇぞ』

「わかってるよー。また、そうやって意地悪なこと言うんだから……」

 普段通りの軽口に、唇を尖らせた。すると悪怯れない、彼の笑い声が耳に届く。見えてなくても、分かるんだろうな。わたしが今、どんなカオをしてるのか。

 そう思うと悔しいような、でもひどく幸せな気分になって、自分の意識が浮上していくのが分かった。何てゲンキンなんだろうと、思わず苦笑してしまう。

 頬が弛むのを感じながら、わたしは電話越しに訊ねた。

「弟さんは? 大丈夫だったの?」

 今日の放課後、曽根は早々と帰宅していた。中学生の弟さんが体調不良で早退したとかで、ご両親も仕事で帰りが遅いため、曽根が看病することになったらしい。なので、わたしは冴香と二人で勉強会をしてたんだけど。

『あぁ、別にたいしたことねぇよ』

 さらりと曽根が答えた。

『熱が出たっていったって、小さい子どもじゃねぇし。病院連れてって、薬飲ませて、寝かせただけだもんよ。本人もヘラヘラしてるし、手間も掛かんなかったし』

「……意外に甲斐甲斐しく世話焼いてるんだね」

 ぽつりと零すと、曽根の怪訝そうな声がした。

『はぁ?』

「んー? やっぱりお兄ちゃんなんだなぁって感心したの」

『何だ、そりゃ』

 また曽根が笑う気配がする。声だけで彼の表情が予想できるようになったのは、いつのことだったっけ?

(卒業したら、これが当たり前になっちゃうんだ)

 メールの文面や電話越しに聞こえてくる声から、彼の表情を想像することが、当たり前の日常になって。会って顔を見ることが、特別なことになってしまうんだろう。


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