連鎖する僕ら 1
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 そんなカオしないでよ。

 やりたいことをやるんだって、決めたのは曽根でしょう? だったら、そんなカオしないで。キミがそんなカオしてたら、何のためにわたしは笑えばいいのか、分からなくなっちゃうじゃないか。

 平気なフリして頑張ろうとしてる意味が、なくなっちゃうじゃないか。

 だから、キミは笑っていて下さい。いつもみたいに不敵に笑って、夢に真っ直ぐ向かって行って下さい。

 そのためだったら、わたしは――。


「……大丈夫、なんだから」

 夜もだいぶ更けた、自分の部屋で。片手にシャーペンを持って、空いてる片手で頬杖をついて、わたしはひとりごちた。机には、参考書とか問題集とか……受験勉強のための道具が一式並べられていたけれど。実のところ、あんまりはかどってはいない。

 油断するとすぐに頭をよぎる考え事に、意識を持っていかれてしまうからだ。

(……分かってるんだけどね)

 ちゃんと全部、分かってる。どんなに望んでも、曽根と同じ道には行けないこと。彼が『野球』と『将来』を基準に選んだように、わたしにだってやってみたいことがある。それを踏まえて、大学に行くって道を選んだ。そうして選んだ先は、彼のものとは重ならなかった。それは今までみたいに、毎日のようには会えなくなることを意味していて。

 だけどあの夏の日に、曽根は言ってくれたから。『待ってるなら、戻ってくる』って。そう約束してくれたから――だから、わたしはそれを信じて待ってないといけない。それが、きっと正しいこと。曽根にとっても、わたしにとっても。

 正しいのも、分かってる。分かってる、けど。だからといって、不安がないわけじゃない。受験の終わったその先に、卒業した先に――これからずっと先のことを、何も心配に思わないわけがない。一緒にいたいって気持ちが大きければ大きいほどに。

「あー……もうヤダなぁ」

 ついにわたしはシャーペンを手放した。そして、机に突っ伏する。少し顔を横に向ければ、頬に伝わるひんやりとした感触が気持ちいい。あれこれ考え過ぎて、煮詰まっているせいだろう。ゆっくりと思考が冷やされて、落ち着きを取り戻していく。


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