連鎖する僕ら 1
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「ちゃんと話聞いて、応援するって決めたんだから! だから今更、ぐずぐず言ったりしないって!」

「そう……?」

 冴香が心配そうな表情で訊ねてきたけど、わたしはそれをヘラリと笑って流す。

「そうそう! 今のわたしの最大の悩みは、どうやって数学を克服するかってことで、他に余計なこと考えてらんないんだから」

「――なら、いいけどね」

 今度は諦めたように、吐息混じりに冴香が言った。わたしはほっと胸を撫で下ろす。

 わたしも、冴香と同じ。

 今は誰にも追及されたくない、思いがある。

 だから今は、何でもないって。目の前の『受験』のことだけで手一杯なんだよって――何もないフリをするしかないんだ。大事な時期なのは、みんな一緒。だから変に心配させて、負担をかけたりしたくない。

 冴香にも――そして、曽根にも。

 ふと視線を落とせば、紙カップから昇っていたはずの湯気がすっかり消えてしまっていた。手にしても、もう温もりは伝わってこない。

 急に周りの空気が寒々しく感じられて、わたしは小さく身震いする。それを見た冴香がぽつりと零した。

「帰ろっか」

 その言葉にわたしは軽く頷いて――そうして、わたし達は学食を後にした。


*  *  *


 夏休みが終わってすぐに彼から聞かされた言葉が、まだ胸にしこりみたいに残ってる。


 ――俺、県外の大学受けようと思うんだ。野球、続けんのに。


 その言葉を聞いたとき、あぁやっぱりなって思った。だから、わたしは黙って頷いた。だって反対する理由も、権利も、わたしにはなかったから。

 瞬間的に胸に痛みが走った。だけどわたしは無理やり、それを押し込んで笑ってみせた。いつもみたいに、ふにゃっと力を抜いて。

 ――頑張ってね!


 そう言ったわたしを、曽根は何か言いたそうな表情で見下ろしていた。たぶん、気づいたんだろう。わたしが押し隠した痛みに。だけど、曽根は何も訊いてこなかった。代わりに、頭を掻きながら頷いた。


 ――ああ。


 力強くそう言った彼も、笑っていた。けれど、それはどこか困ったような、寂しそうな笑顔で。

 その笑顔を思い出して、わたしは唇を噛んだ。


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