連鎖する僕ら 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「メーワクとか、そういうんじゃないけど……でも何ていうか」 「ん?」 「一時の気迷いって気がすんのよね……」 どこか翳りのある表情で、冴香は言った。わたしは眉をひそめる。そして。 「えー!」 あげたのは非難の声だった。 「いくらマミーがお調子者だからって、そういう大事なことを『気迷い』なんて、あやふやな気持ちでは言わないと思うよ?」 まして、今まで良好な関係を築いてきた二人だ。冴香がそういういい加減なことを嫌う性格なのを、マミーだってちゃんと知ってるはず。 「それは……そうなんだろうけどね」 わたしを見つめながら、冴香は困ったように言った。そっと息をついて、視線を外す。普段あまり見られない、すっきりしない彼女の態度。それを目にして、わたしは何だか申し訳ない気分になってきた。 小さく、頭を下げる。 「ごめん。余計なこと、言ったよね」 当事者は冴香とマミー。呼ばれもしないのに、わたしが立ち入る権利はない。二人にはいつもいっぱいお世話になってるから、今みたいに元気のない姿を見ちゃうと――つい「何か力になれないかな」と思ってしまうんだ。だけど。 (頼られてもないのに、しゃしゃり出るのは余計なお世話だもんね) 少し前、二人が気まずくなったときも、何も話を聞くことはなかった。二人は二人で、ちゃんと自分たちの問題を解決してみせたんだ。だから今回も、きっとそうするつもりなんだろう。あからさまに悩んでる様子なのに、話してもらえないのは寂しい気もするけど仕方ない。 思わず嘆息すると、冴香が微かに笑った。夕焼け色に染まって、それはとても優しく見えた。 「謝んなくていいってば」 彼女は言う。 「別にあんたは興味本位で言ってるわけじゃないでしょ? そのくらいは分かってるから。あんたが謝って、落ち込む必要なんてないし。それに」 一旦、言葉を切って冴香がこちらに向き直った。さっきまでとは違う、真っ直ぐな目を向けられて、わたしはドキッとする。 半ば呆れたように、彼女は続けた。 「ヒトのこと、心配してる場合じゃないでしょ? あんただって……」 「わたしは、大丈夫だよ!」 冴香の言葉を遮るようにして、わたしは口を開いた。ふるふると、大きくかぶりを振ってみせる。 |