連鎖する僕ら 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 学食に、人は他にいなかった。窓の向こうのグラウンド(野球部が使っているのとは別のものだ)に、サッカー部の人たちが走り回る姿が見える。聞こえるのは彼らの声ぐらいで、あとは静かなもの。がらんとした、という形容が相応しい。お昼休みの賑やかさが嘘みたいな静けさ。 そこで、冴香とわたしは同時に嘆息した。 互いに顔を見合わせる。 「……何よ?」 「そっちこそ」 じろりとこちらを睨む冴香を、わたしもきつめに見返した。暫く見つめあって――先に目を逸らしたのは、冴香のほうだった。 「ダメだ……調子が出ない」 「大丈夫?」 言って頭を抱えた冴香に、わたしは問う。けれど、その首は左右に振られるだけ。わたしより、相当参ってるみたいだ。 それはそうだろうなぁ、と思う。 「公衆の面前で告白された挙句、手にキスされたんじゃねぇ……」 こそっとひとりごちたつもりが聞こえたらしい。 「言うなぁっ! だいたい手にキスはされてないっ!!」 珍しく真っ赤になった冴香が立ち上がり、怒鳴った。バン! とテーブルを叩く。 「コクられたのは事実だから、噂になっても仕方ないけど! 何で尾ひれが付いてくるワケ!?」 「……そう見えたからじゃないのかなぁ?」 小声で言い添えると、冴香が苦虫を口いっぱいに詰め込まれたような表情で呻いた。 「どうせ見てんなら、ちゃんと見てろっていうのよ……!」 「怒るトコ、そこ?」 ツッコミを入れてはみたけど、冴香は何も言わない。黙って椅子に腰掛けると、ぐいっとミルクティーを呷った。あぁ何か居酒屋にいるオジサンみたくなってます冴香さん。 そもそもあの『女王・冴香さま』が何故こんなに動揺しているのか、というと。 先日、彼女は放課後の図書室で告白されたのだそうだ。片手を取られて、とてもストレートに。その現場を、知り合いにも、そうでない人にも目撃されて――瞬く間に噂の的になってしまったのだ。 野球部の女王様は手の甲にキスされて、愛の告白を受けていました――と。 しかも、その相手っていうのが。 |