彼と向日葵少女 しおりを挟むしおりから読む目次へ 立て続けに問う俺の勢いに飲まれかけてた藤原は――それでも最後の問いには、少々憮然とした面持ちで答えた。負けず嫌いな彼女は、どうやら『怖い?』の一言が引っ掛かったらしい。 俺は内心で笑いつつ、話を続ける。 「じゃあ、ハナから恋愛する気がないわけじゃないと」 「そーね」 だんだん面倒くさくなってきたんだろう。投げやりな調子で藤原は言った。その一言に、俺はこっそり拳を握る。 よし! 言質は取ったぞ。 俺は会心の笑みを浮かべて、藤原に言った。 「じゃあさ、受験終わったら考えて」 「何を?」 「俺のこと」 藤原の表情が固まった。大きく目を見開いて、こっちを見る。俺はできるだけあっさりと、でも真面目に告げた。 「俺、お前のこと好きだから」 「……冗談にしては、面白くないわよ」 ちょっとは動揺したらしい。いつもは真っすぐな視線を彷徨わせながら、藤原がぼそりと言う。俺はかぶりを振って、否定の言葉を返した。 「冗談じゃないよ。本気だよ」 「そんなの、」 「信じらんない?」 言い掛けた藤原の言葉を遮って訊ねると、彼女は怒ったような表情で言い切った。 「信じない!」 「あー、やっぱり……」 予想通りの返答に俺は苦笑う。無理もないか。俺だって、自分でびっくりだもんな。 でも、今度は引かない。だって今度は誰にも遠慮しなくていいんだ。最初から諦めなくていいんだ。伝えることも、一緒にいたいと思うことも。 だから、まずは信じてもらわないと。 俺はおもむろに、机の上に置かれた藤原の手を掴んだ。そしてその手を握って、自分の口許まで持っていった。 白くて細い指先を、掠めるようにして告げる。 「藤原が、好きだ」 「――っ!」 「伝わった?」 みるみるうちに赤面した藤原に、俺は首を傾げる。藤原は涙目でこっちを見て――空いてる片手で、側に置いてあった辞書をわし掴んだ。それは目を瞠るような、素早い動きだった。そして。 「何すんのこのばかっ!!」 「っ!!」 大上段から加えられた辞書の一撃に撃沈して、俺は思った。 やっぱ、早まったかなと。 でも――痛む頭をさすりつつ見上げた先の彼女の表情が、この上なくオンナノコな顔だったのを目の当たりにして。 頬が弛むのを抑えられず、俺はへらりと笑ってしまった。 何はともあれ、ゴールはまだまだ遠そうだ。 『彼と向日葵少女』終 |