投げ込まれた石ころ 7 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「初璃ちゃんが来ると、有人がいつも嬉しそうにしてたからさー。大事な子なんだって言ってたし」 思いもよらない先輩の言葉に、わたしは身を固くした。 「聞いてなかった?」 「……聞いてません」 ぼそりと答えるわたしに、先輩は苦笑いする。 「そっかー。やっぱりアイツ、言わないまんま逝っちまったのか」 ぽりぽりと頭の後ろを掻きながら、優しい口調で彼は話してくれた。有ちゃんが、わたしのことを大事に思ってくれていたことを。 「そう、ですか……」 それに対してわたしが返せる言葉は、情けないほど何もなかった。 とてもとても嬉しくて。けれどもう、どうしたって手の届かない場所へ行ってしまった人。その人に一番告げたかった想いを伝えることは出来ないんだって。 微かに残っていたキモチのかけらの存在を痛感して、わたしは唇を噛んだ。 わたしに『答え』を求める資格なんて、ない。 はっとして、わたしは曽根を見た。どうしようもなく怖かったけど、ちゃんと顔を上げて見た。 曽根は、わたしを見つめていた。――とても複雑な表情で。 「ごめん、わたし……」 すぐに胸にこみあげてきた、色々なモノがない交ぜになった感情を抑えることができなくて、わたしは身を翻した。 「先、帰るね……っ」 「ええっ?」 「初璃っ!」 先輩と冴香の心配そうな声がした。でも。 曽根は、何も言わなかった。 違う。彼に何かを期待するなんて、わたしはしたらいけないんだ。 まだ感じる曽根の視線を振り切って、わたしは部室から逃げ出した。そして、いくらもしない距離で現れた影。 「うわ!瀬戸っ?」 全力で走り去るわたしの後には、すれ違ったマミーの慌てた声だけが残された――。 【続】 |