投げ込まれた石ころ 6
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 ――そんなふうに見られたって、わかんないよ。

 わたしは静かにかぶりを振って応じると、先輩と同じように記憶を探る。確かに会ったことがあるんだ。先輩が思い出しても、わたしが忘れてるんじゃ失礼になってしまう。

 先輩は三年生で野球をやってた。わたしとの接点は――。

「あ」

 思いがけずもれた声に、わたしは口を塞いだ。曽根が眉をひそめる。

「瀬戸?」

 わたしは答えられない。

 思い出したのは、哀しいほど澄んだ冬の青空。

 多分、彼の脳裏にも同じ光景が浮かんだのだろう。

「初璃ちゃん……そうか。有人(ゆうと)の葬式で会ったんだっけ」

 有人。それは有ちゃんの名前。

 そうだ。わたしはこの人に会っている。お葬式のときだけじゃなくて、それ以前にも。

 二人は中学時代、同じ野球チームにいたのだ。当時わたしは毎回のように応援に行っていたんだから、覚えられていても不思議はない。

「知り合い……なんすか?」

 珍しくぽかんとした表情で、曽根が先輩に尋ねた。冴香もきょとんとしている。先輩はそれに対して、あっさりととんでもない答えを口にした。

「ああ。俺の亡くなった友達のカノジョ」

「なっ?!」

「はっ?」

「えっ?」

 わたし達は三者三様、驚きの声をあげた。その様子に目を瞬いて、先輩が首を傾げる。

「あれ違ったっけ?」

「ちっ……がいます!」

 動転して妙なアクセントがついてしまったが、わたしは懸命に否定した。

 ああ今曽根はどんなカオしてわたしを見ているんだろう。怖くてとても確かめられない。

 実際、事実ではないんだから狼狽える必要なんてないんだろうけど……あの時感じた後ろめたさが、こんなところでアダになるなんて!

「えー? でも」

 先輩は少し不満そうに話し始めた。



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