投げ込まれた石ころ 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ ――試合が終わって。 冴香の片付けを手伝った後、わたしは野球部の部室にいた。今日の応援と手伝いのお礼をしたいと言われて顔を出すと、そこには曽根と冴香だけがいた。マミーはお手洗いに行っているらしい。 そこに。 「新チーム初勝利、おめでとさん」 そう言って野球部の部室の中に入ってきたのは、さっきの人だった。 「先輩」 「今日はわざわざありがとうございます」 その先輩に姿勢を正して挨拶したのは、曽根と冴香の二人。わたしは邪魔にならないように(だって部外者だし)、軽くお辞儀だけして脇に避けた。それに気がついた先輩が、わたしのほうを見る。 「新しいマネジじゃないよね?」 「いえ違います」 ぱたぱたと片手を顔の前で振って、わたしは答えた。すると先輩は「ああ」と一人、納得したような声を出す。 「今話題の曽根のカノジョか」 「違いますっ!」 「どこで話題になってるんすか!」 わたしと曽根、二人の声が室内に響く。冴香がこれみよがしに頭を抱えてるのが見えたけど、無視。だってまだカノジョじゃないのは本当のことだ。 先輩はわたし達三人の様子に頓着せず、そのままイイ笑顔で答えて下さる。 「やー、表で間宮に聞いたんだけど」 ……後でシメる。 多分、曽根も同じことを考えたんだろう。彼の眉間の皺が、ぐっと深くなった。 「で、さあ」 唐突な先輩の呼び掛けに、わたしはついと顔を上げた。そこには訝しげに細められる彼の瞳。予想外に距離を詰められていて、思わず後退りしてしまう。だけど、先輩は構わず続けた。 「どっかで会ったこと、ないっけ?」 「先輩、似合わないナンパですかー?」 冴香が笑顔で茶化すが、わたしは笑えなかった。だってわたしも、そう思ってたんだから。 黙り込んだわたしに何か感じたのか、先輩は重ねて問うてくる。 「名前、教えてくれる?」 それにわたしは、おそるおそる答えた。 「瀬戸です……瀬戸、初璃」 「瀬戸、さん……」 先輩は何度かわたしの名前を繰り返しながら、懸命に記憶を探っているようだった。すっかり自分の世界に入ってしまった彼を見て、曽根が嘆息してこちらに視線を移す。 |