投げ込まれた石ころ 4
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「だあっ! もうじき時間だかんな! 行くぞ!」

 そう言ってマミーの耳を引っ張って、凄い勢いで戻って行った。うわあ痛そう。だけどマミーは引きずられながらも、ご丁寧にこちらに手を振ってくれた。わたしも小さく振り返して、二人を見送る。

 やがて、こちらの話し声が聞こえないくらいの距離に二人が遠ざかったところで、冴香が含み笑いをしながら言った。

「返事、早く貰えんじゃない?」

「だといいけど」

 過剰な期待はしない。曽根が何の返事もしてくれないなんてことはあり得ないけど、わたしの期待は彼にとって重荷になってしまうから。

 わたしとの他愛ない会話の中で、顔色を変えて反応してくれる。それだけで、今は十分じゃないか。

「さあ! しっかり応援するぞーっ!」

 わたしは人目もはばからず、両方の拳を振り上げた。


*  *  *


(……?)

 どこからか視線を感じて、わたしは眉をひそめた。不自然ではない程度に辺りを見回してみる。

「――あの人かな」

 ぽつりと呟いて見たその先には、制服姿の男子生徒が一人立っていた。わたしが座っている場所よりも、曽根たちのベンチに近い所。わたしと同じようにネット越しに、彼らの試合を眺めていた。背が高くて、体つきもがっしりしている。加えて坊主頭だから、もしかしたら野球部の先輩なのかな。きっと新体制のチームがどんな感じか、見に来たんだろう。――とか考えていたら。

(……あ)

 目が合ってしまった。わたしは慌てて、会釈した。相手は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにこちらに笑いかけてくれる。

 ――あれ?

 その笑顔に、わたしは首を傾げた。感じたのは、奇妙な既視感。

(どこかで会ったっけ)

 そんな思いを抱いたのはわたしだけではなかったようで、彼はこちらに歩み寄って来ようとしていた。だけど、それは叶わなかった。彼は後輩の部員たちに手招きされていたから。

 少し迷ったみたいだったけど、結局彼は一度わたしに軽く会釈をして後輩のもとへ向かった。

「誰だったっけ……?」

 その姿を見送りながら、わたしはひとりごちた。


 ――思えばここで無理矢理でも、あの人と話をしておけばよかったんだ。そう思っても、後の祭り。

 そしてわたしは試合後に、とても気まずい状況に置かれることになる。


*  *  *


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