彼女と夏空少年 しおりを挟むしおりから読む目次へ 大事な大事な最後の夏が始まろうっていうこの時期に。エースピッチャーが怪我するなんてこと、あっちゃいけない。それがたとえ、どんなに小さなものだったとしても。 ほんのちょっとの僅かな痛みでも、全力でプレーすることを妨げるようなものなら、それはあってはならないものなんだ。だから、そうならないようにマネジであるわたしも、間宮本人だって気をつけてたはずなのに。 なのに。 (何であのタイミングで滑るかな、自分……) 胸にずしりと重いのは、最大級の自己嫌悪。マネジが選手にケガさせるって、どんだけ間抜けな話なのよ。ホント最悪、サイテーだ。 幸い――多分、間宮の自己申告通り、そうたいしたことではないのだと思われる。同じように尻餅ついたわたしに、特に異常がないのだから。だけど痛みがあれば、そこを庇うのに別の場所に負担をかけたりするわけだから……やっぱり万全とは言い難い。 こんなことなら。 「一人で階段滑り落ちたほうがマシだった……」 思わず、小声でそう洩らした。ちょうど、そのとき。 ずっと視界に収めていたドアが音もなく、開いた。 わたしは慌てて立ち上がる。すると中から出てきた人物は、いつもと変わらない笑顔をへらりと浮かべてみせた。 「どこも異常ないってー」 そのあまりにも呑気な言い様に、わたしはこっそり拳を握って、殴りつけたい衝動をどうにか堪えたのだった――。 * * * しとしとと、静かに降り続く雨の中。わたしと間宮は傘を片手に、学校に戻る道を歩いていた。互いに言葉はない。 会計を終えて外に出ても、わたしの気分は晴れなかった。大事には至らなかったけど、試合の近い選手にケガをさせそうになった事実は、雨雲にも負けない暗さと重さでわたしの心にのしかかっていたから。 それと同時にふつふつと胸に沸くのは、間宮に対する苛立ち。何で庇おうとしたんだろう。ケガしたらダメだって、本人がいちばんよく分かってるだろうに。 結果はやはり、たいしたこともなく――数日分の貼り薬を貰って、様子を見ながら練習するようにとのことだった。だからもうこれ以上、グダグダ言ってもしょうがないんだけど。 |