彼女と夏空少年
しおりを挟むしおりから読む目次へ






「ゆっくり立ってみ?」

「おー」

 言われた通りゆっくり立ち上がると、間宮は腰をさすりつつ、そのうち屈伸したり足首を回したりして、身体に異常がないか確かめ始めた。

 そして、結果。

「腰だけ痛い、かな」

 苦笑いして言う間宮を半眼で見つめて、わたしはきっぱりと告げた。

「行くわよ」

「どこに?」

「病院に決まってんでしょ!」

 いつもながら呑気な返答に、わたしは眉を吊り上げた。間宮がぎょっとして口を開く。

「へ、今から?」

「当たり前でしょうがっ」

 今すぐは痛みがなくたって、後から出てくることもある。まして、腰を強く打ってるんだ。楽観するのは禁物だ。

(この大事な時期に〜〜っ!)

 もうすぐ夏大が始まるっていう、この時期に、よりによってエースが。

(何であんなことするかなあっ?)

 腹立たしい気持ちをどうにか抑えつけようと、わたしは大きく息をついた。そしてゆらりと立ち上がり、神妙な顔でこちらを見ている成瀬と曽根に声をかける。

「――そういうわけだから、コイツ連れて病院に行ってくるわ」

 苦虫を噛み潰したような口調になってしまったのは仕方ない。

 ため息混じりにそう告げると、やはり気掛かりなんだろう――二人とも何も言わずに承諾してくれた。

「大丈夫なんだけどなぁ……」

 困ったように呟く間宮。その声に、何だか無性にイライラして――。

 わたしは乱暴に前髪を掻き上げたのだった。


*  *  *


 そんなわけがあって、わたしは間宮と二人、学校の近所にある整形外科にやってきたのである。小さいながらも親切な先生がいるこの医院は、ウチの学校の運動部員のほとんどがお世話になっている。

 診察室のドアはまだ、開かない。

(あーもうっ)

 周りには順番待ちのお年寄りが数人いるため、あまり刺々しい雰囲気にならないように、わたしはため息をついた。さっきから、こればっかりだ。

(何だってあいつは……)

 わたしなんか、わざわざ庇おうとしたんだ。


- 217 -

[*前] | [次#]






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -