彼女と夏空少年
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 ズルッと一段踏み外したのが分かった。だからって、既に両手がカゴで塞がっていたわたしがそれをすぐに手放せたかというと、そんなわけもなく。

 手のひらに貼りついたみたいに離れないカゴを抱えたまま、尻餅をつくのを覚悟した。幸い、そんなに高い所じゃない。このまま滑り台よろしく落ちていっても、死ぬことはないだろう。

 時間にしたら、ほんの一瞬。その間にわたしはそこまで考えて、来るべき衝撃に備え、ぎゅっと目を閉じた。――そのときだ。

「危ね……っ!」

 よく聞き慣れた声が耳元でして、わたしは抱きかかえられた。その声の主に。

 鼻先を掠めた、汗の匂い。

 そして、次の瞬間。

『っ!』

 わたしと、その声の主はお尻の辺りに走った痛みにそれぞれ蹲った。

「おー……いてぇ」

「大丈夫か、二人とも!」

「何やってんだよ……」

 背後で呻くのは、わたしを庇おうとしたらしい間宮。慌てて駆け寄ってきたのは成瀬。呆れたように、こちらを見下ろしてるのは多分、曽根(そね)だろう。

 けど状況が状況なだけに、曽根もすぐさま真面目に訊ねてくる。

「ケガは?」

 ――そうだ! ケガ!

 成瀬の手を借りつつ立ち上がったわたしは、弾かれたように後ろを振り返った。そして、まだ座りこんだままの間宮に視線を合わせ、食い入るようにその顔を見つめる。

「あんた、大丈夫なのっ!?」

「へ?」

 血相を変えて問うわたしに、間宮はきょとんと瞬いた。わたしはその場にしゃがみこんで、彼の肩やら足やらにぺたぺたと触れる。

 狼狽える間宮。

「ふ、ふじわらっ?」

「やかましい! どっか、変に痛めたりしてないでしょうねっ?」

「や、大丈夫だと思うけど……」

「『思う』じゃダメでしょ!」

「落ち着け、藤原」

 やんわりとわたしの肩を掴んで押し留める成瀬。その声に従って、わたしは間宮から手を離した。曽根が淡々と促す。

「ゆっくり立ってみ?」

「おー」

 言われた通りゆっくり立ち上がると、間宮は腰をさすりつつ、そのうち屈伸したり足首を回したりして、身体に異常がないか確かめ始めた。

 そして、結果。

「腰だけ痛い、かな」

 苦笑いして言う間宮を半眼で見つめて、わたしはきっぱりと告げた。

「行くわよ」

「どこに?」

「病院に決まってんでしょ!」


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