まいりました! しおりを挟むしおりから読む目次へ 自分たちの会計を済ませてから、わたしはお店の入口に向かう。 そこに立って辺りを見回すと、程なくして曽根がこっちに走ってくるのが見えた。 「悪かったな、急に」 「全然っ!」 目の前に来て開口一番で言う曽根に、にこやかに首を振るわたし。そして財布から小銭を取り出そうとする彼を押し止める。 不思議そうなカオの曽根。 わたしは締まりなく笑ったまま、彼に告げた。 「今日はわたしのオゴリです」 「ナンデ」 首を傾げる曽根に、わたしはペットボトルと菓子パンを取り出しながら答える。 「だって、格好良かったんだもん」 「は、あっ?」 「ああやって、困ってるヒトを助けてあげられるのってスゴイよね! わたし、感動しちゃったよー」 だから、コレはごほうびです。 そう言って、わたしは曽根に品物を押しつけた。曽根は目を瞬かせて、でも淡々とした声で言う。 「別に普通だろ?」 「そんなことないよ」 一瞬でも躊躇したわたしには、それを迷わず実行した彼がとても眩しく見える。 「曽根が彼氏でよかったなあ」 「っ!」 「みんなに自慢したくなっちゃった!」 まっすぐ見上げてそう言ったら、曽根がぷいと顔を背けた。そして、ガシガシと勢いよく頭を掻く。 ――あれ? 曽根ってば。 「……照れてる?」 「うっせぇよ!」 からかうように問えば、苦々しい口調で応じてくる彼。乱暴な言葉とは裏腹に、耳が赤く染まってるのが何だか可愛い。 我慢できなくて吹き出したら、睨まれた。だけど全然怖くない。 そのままニマニマと笑って見ていたら、曽根は深く深くため息をつく。 「……あんま笑ってっと、追いてくぞ」 「わ! 待ってよーっ!」 照れ隠しでスタスタと歩きだした曽根の後を、わたしは慌てて追いかけた。 ヒトに優しくすることを少しも躊躇わなかった彼に、しっかり惚れなおしてしまった――そんなある日の出来事でした。 『まいりました!』終 |