さくら、ひらひら 7 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「蹴らねぇの?」 おどけたように訊いてくる曽根に、わたしは睨みつけるしかできない。ズルイズルイズルイ。そんな思いが胸の中を渦巻く。 「何で……?」 「ん?」 「昨日の今日で、何でそんなに余裕なのさ」 悔しげなわたしの問いに曽根は何度か瞬き、ニヤリと笑ってみせる。 「目の前で自分以上に狼狽えてる人間が居たら、冷静にもなんだろ」 「……そういうもの?」 「そういうもんだよ」 そして湛えた笑みを穏やかなものに変えてから、彼が少し屈んだ。 「瀬戸」 「……っ」 低く響くその声は、とてもズルイと思う。分かってるんだろうか? ここは教室で、そろそろみんなが登校してくる時間で。 だけど、その声に逆らえない自分はきっともっとバカなんだ。 胸の中深く深くため息をついてから、昨夜より足りないぶんだけ背伸びする。 そうして、わたしは両目を閉じた。 ずっと足りなかったぶんは触れた一瞬で満たされて、それだけでいっぱいいっぱいになってしまう。 だけど反面、きっとすぐに足りなくなっちゃうんじゃないかって気持ちもあって。 そんな感覚が少し怖い。 (ヘンなのはわたしのほうなのかな……) 熱に浮かされたような思考の中で、わたしはぼんやりそう思った。 『さくら、ひらひら』終 |