さくら、ひらひら 7
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「どんなカオしてたって、変わんねーから」

「は?」

 ますます意味が分からなくて、わたしは眉根を寄せた。すると曽根は少しイライラしたような声で『だからー!』と唸る。

 同時に伸ばされる彼の手の行き先は。

「――っ!」

 頬に触れた指先に、また引っ張られるのかと思って身を竦めた。両目もギュッと閉じてしまう。

 だけど、触れる指の動きは優しくて。

「そ、ね……?」

 おそるおそる目を開く。視界の中央に見えるのは、何故か不敵に嗤ってる曽根の顔で。

 何ですかその不穏なカオは。今は朝ですよ学校ですよ誰か人でも来たらどーするんですか。

 そんなふうに言いたいことは山程あったけど、声にはならず。わたしはただ立っているしかできなかった。

 代わりに、曽根の声が教室に響く。

「どんなカオされたって、結局こーやってちょっかい出したくなんだよな」

「っな…!?」

 何、今このヒト何言いましたかっ? すっごく『らしくない』コトを言われたような気がするんですけど!

「曽根が曽根じゃない……」

「何だそりゃ」

 呆然と零れたわたしの呟きに、曽根が眉をひそめた。だけど、わたしの失礼な発言は止まらない。

「だって、そんなこと言うキャラじゃないもん」

「まあ、その自覚は大いにあるけど」

 触れた指先はそのままに、彼はぶっきらぼうに言う。

「睡眠不足の人間が言う戯れ言だから、気にすんな」

「……寝てないの?」

「いつもよりな」

「おんなじだ」

「だろうな」

 テンポよく交わされた科白の最後に、曽根が苦笑した。訝しむわたしの目元をそっと撫でる。

「目、赤いし」

 そう言って、彼は愉しげに両目を細めた。その変化にギクリとして、わたしは慌てて口を開く。

「曽根、そろそろ……」

「何?」

「や……みんな、来ちゃうと思うから」

「だから?」

「だ、だからっ」

 言い淀んでキッと曽根を睨んでみるも、彼は全然堪えない。愉しそうに、こちらを見下ろしている。

(遊ばれてる……!)

 憮然として息をついて、わたしは彼から目を逸らした。

「曽根、やっぱりヘンだよ……」

「――開き直っちまったからな、バカでもいーやって」

「何それ」

 少し間を空けて返ってきた答えに、視線を元に戻す。

 曽根は何も言わなかった。

 顔がすっぽりと彼の両手に包まれた。これ以上ないくらい熱が上がる。


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