さくら、ひらひら 7 しおりを挟むしおりから読む目次へ ただでさえ気恥ずかしいのに、そんなこと言われたら余計に。 「どんなカオして会ったらいいか、分かんないじゃないかー」 いきなり顔を合わせて気まずくなるのを避けるため、早めに登校して心の準備をしておこうと思ったんだけど。いっそ今から寝たフリして、授業が始まるまでやりすごそうかなぁ。何となく、逃げ出したい気分ではある。 でも、きっと曽根は気にしてないんだろう。人並みに照れたりするけど、基本的にポーカーフェイスの上手い人だし、狼狽えるところなんて滅多に見ないし。 あのときだって心臓はバクバク言ってたけど、表情も仕草もわたしなんかよりよっぽど落ち着いてて、それで――って。 (うわー―っ) あの状況が再び脳内リプレイされそうになって、わたしは慌ててかぶりを振った。弛んだ頬を引き締めるように、ぺちぺちと叩く。 ――と。 「……何やってんだ?」 背後から呆れたような声がして、わたしはぎょっとして振り返った。そこにいたのは、怪訝そうに眉を寄せる――よく知らない人が見たら怒ってると思われるに違いない――わたしの大事な彼氏さま。 「曽根っ、何で? 朝練はっ?」 両手で顔を隠しながら、わたわたと問いかける。すぐに返される、彼の答え。 「今日はねーの。つーかさ」 そして、その声色はムッとしたものに変化する。 「……何で、カオ隠すの?」 言うやいなや、曽根はわたしの両腕を掴んだ。そして、ぐいっと引っ張ってわたしの顔を露にする。 「――っ!」 予想外の力強さに、わたしは身を竦めて顔を俯けてしまった。そこに彼の声が降ってくる。 「びびんなって。どうした?」 ああ良かった。別に本気で怒ってるわけじゃないみたい。内心で胸を大きく撫で下ろして、わたしはおずおずと顔を上げた。 おそるおそる口を開く。 「……曽根が」 「うん」 頷いて、彼が先を促す。掴まれた腕はそのままだったけど、わずかに力が緩んだのが分かった。 それに軽く息をついて、わたしは続けた。 「『煽るな』って言うから。……わたし、普通にしてるつもりなのに。そういうこと言うから……」 どういうカオしてたらいいのか、分かんなくなったんだもん。 思った以上に拗ねたように、他に誰もいない教室にわたしの声が響いた。すると曽根はぱちぱちと、何度も瞬きを繰り返す。 恨めしげに曽根を見上げるわたしと、きょとんとしてわたしを見下ろす曽根。 しばらくそうやって見つめあっていると、曽根が深々とため息をついてうなだれた。そして言う。 「早く来てよかった……」 「何で?」 わたしが首を傾げると、曽根は目を半眼にして怒ったような声で言った。 |