さくら、ひらひら 7 しおりを挟むしおりから読む目次へ (びっくりした) 一晩明けた今でもそう思う。 深く大きく息をついて、窓枠に凭れた。いつもより早い時間の校舎の中。まだ静かな教室の窓を開け放って、ぼんやりと空を見上げる。 天気予報のお姉さんは『今日は汗ばむ陽気になるでしょう』と言っていた。今は雲が多くて日差しも弱いけど、昼間はすっきり晴れるんだろう。絶好の野球日和だ。 (寝不足には堪えそうな陽気だなあ……) 眉間を揉みほぐして、欠伸をひとつ。体育がない今日の時間割は、よかったのか悪かったのか。そんなことを思いながら、頬杖をついた。 瞼が、重い。 結局、昨夜はほとんど眠れなかった。だって、その………思い出してしまうのだ。目を閉じると、どうしても浮かんできてしまって。 暗がりの中だったっていうのに、これ以上ないくらいよく見えた。黒くて、真っ直ぐな瞳。 静かなのに、どこか熱っぽかった。わたしが知らなかった眼差し。 とても見ていられなくて、目を閉じた。それから。 (うわああああ……) また思い出して突っ伏する。顔が熱い。昨夜からずっとこの繰り返しだ。いい加減にしないと、そろそろ脳みそが沸騰して倒れちゃうんじゃないだろうか。 でも――まだ残ってるんだ。頬を撫でる無骨な指の動きも、一瞬だけ触れた熱くて、少しだけカサカサした感触も。 知らなかった、ホントに。 あんなカオで、あんなふうにわたしに触れるヒトだったんだ。 だから、すごくびっくりした。もちろん嬉しくて、幸せで――だけど知らない一面はちょっと怖いなとも思えてしまって。いろんなものがない交ぜになったキモチは、涙という形になって表れた。その思い全てを、曽根に言うことはしなかったけど。 (すぐにそんなムードもなくなっちゃったけどね) あの後、延々と行われた言い合いを思い出してため息をつく。『煽るようなカオをするな』って散々言われたけど、そんなつもりはないし。わたしは普通にしてるつもりだもん。 |