さくら、ひらひら 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ (ホント、どうしようもねぇや) 一瞬の出来事に、心臓は全力疾走した後みたいになってる。こうまで俺の心をかき乱す瀬戸がスゴイのか、そこまでハマってる俺がバカなのか。 考えることを一切放棄して、俺はまた彼女を抱き締めた。最初のときよりは優しく、包み込むように。顔に集中した熱が引くまで、そうしていた。 そして、どのくらいの時間が経ったんだろう。 川を渡ってきた風に肌寒さを覚えて、俺は我に返った。腕の中の瀬戸はまだ静かにじっとしている。 顔を上げて見る景色は、ここに来たときと何ら変わりはなかった。遠くにあったオレンジ色の灯りもまだ点いていたし、川沿いの桜は頼りない街灯の下で花弁を散らしていた。 音もなく、ひらひらと。 それにしても――いくら住宅街とは言え、よく人が通らなかったもんだ。今更ながら、深々と息をつく。じゃなかったら、とてもあんな行動には出られない。 (マジで良かった……) 無性にこみ上げてくる気恥ずかしさと罪悪感みたいなもんに、俺はガシガシと頭を掻く。その拍子に、瀬戸が顔を上げた。 目が合って、俺は問いかけた。 「お前……泣いてたの?」 そう言って凝視した彼女の頬には、涙の跡があった。思わず眉をひそめると、瀬戸は慌ててかぶりを振る。それから小さく口を開く。 「すっごい嬉しく、て。何か胸がいっぱいになっちゃって……」 たどたどしく言って、瀬戸は笑った。その、溶けちまうんじゃないかってくらい甘ったるい表情をまともに目にして。 (〜〜〜っ! だからさあ!) 胸中で叫んで、俺は瀬戸の頭を乱暴に掻き回した。突然のことに、当然瀬戸は驚く。そして、眉を吊り上げて俺を見上げてきた。 「いきなり何すんのっ?」 「うっせぇ!」 あのカオは反則だ。 それを脳裏から払い落とすべく、俺は頭を横に振ってぼやく。 |