さくら、ひらひら 6 しおりを挟むしおりから読む目次へ 瀬戸はいつでも素直な人間だ。 そのせいなのか、些細なことに対してでも『ありがとう』と感謝することを厭わない。 それだけじゃない。詫びの言葉も、好意を示す言葉も、こいつはちゃんと口に出して、自分の言葉で伝える。 こいつは気持ちを伝えることの重要性を知ってるから。伝えられなかった――その後悔を身にしみて感じているから。 そして、ほんの小さな『当たり前』を、瀬戸はすげー大事にしている。ただ会えることを、側にいられることを、話ができることを、彼女はものすごく幸せなことだと捉えている。 それは瀬戸が知ってるからだ。『当たり前の日常』はふとした拍子に、消えてなくなることがあるんだってことを。それに傷ついて、苦しんでいたのが彼女だった。 俺はそれを見てるだけで、どうにかしてやることはできなかった。ただこれ以上、瀬戸が寂しいキモチにならないように。それだけは気にしていたけど。 それでも現実は失敗も多くって、泣かせちまったこともあった。 だから、あんなこと言われるなんて思ってもみなかったんだ。 俺のおかげなんて、彼女は言ったけど。俺は特別なことは何もしてやれてないんだから。 『ありがとう』って言われて、ホントにびっくりした。 そして不意討ちの告白にマズイと思った。目頭がぎゅっと熱くなった。 (うわヤベ……) そう思った瞬間、俺は瀬戸の腕を引き寄せた。 何の抵抗もなく、倒れこむ身体。 そのまま絶対顔を見られないように(だってマジで情けねーカオしてるはずだ)、彼女を抱き締めた。 「――そそそそそそ曽根っ?」 しばらくして我に返ったらしい瀬戸がどもりながら、顔を上げようと身動ぎした。まだちゃんと動揺から立ち直れていない俺は腕の力を強めて、押し殺した声で言う。 「――黙って」 「……っ!」 途端に瀬戸の身体が大きく震える。俺はそれには構わずに、こみ上げてくるものを両目を閉じてやり過ごした。 鼻先が瀬戸の髪に触れた。掠めたシャンプーの香りに、一瞬戸惑う。腕の中の瀬戸は思ってた通り、小さくて柔らかくて――だけどやっぱり細くって。折れちまうんじゃないかって、急に心配になった。 けど、その考えもすぐに消えた。だって瀬戸ってば、ガッチガチに固まってんだ。その様子に今度は笑いがこみ上げてくる。 |