さくら、ひらひら 5
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「ナニ?」

「ううん、何でもない! でも曽根、詳しいんだね」

 曽根はお好み焼きの美味しい屋台、焼きそばの美味しい屋台、その他諸々の情報を教えてくれたのだ。何かホント意外だなー。

「そういうことに詳しいのって、マミーのほうかと思ってた」

「ま、ほとんどあいつの影響だけど」

 手を繋ぎ、歩く速度を変えることなく。徐々に近づいてきた商店街の入口を眺めながら、曽根が話を続ける。

「ちっせえ頃は家族と来てたんだけど、野球やり始めてからはチームの奴らと一緒だったからさ」

「じゃあ、マミーと毎年来てたんだ?」

「中坊のときな。あいつ、俺より食うからさ。他の奴らも一緒に、あちこちの屋台を制覇したんだよ。今思うとアホなことしたよ、ホント」

 まあ、そのおかげでここの縁日で不味い屋台に当たることはないんだけど。

 曽根はそう言うと、懐かしそうに目を細めた。視線の先で中学生くらいの子たちが騒いでいる。

「そっかー」

 普段あんまり見れない表情。それを目にして、どこか心が浮き足立ってくる。

「曽根も来てたんだね」

 ぽつりと呟いた言葉に、彼が目線だけで疑問を投げ掛けてきた。

「わたしも小さいときから来てたから」

「へぇ」

 軽く頷いて、曽根がこっちを見た。

 その顔はいつも学校で見てるものより、ずっと穏やかだ。それを独り占めにしている事実に嬉しくなって、わたしは続ける。

「もしかしたら、すれ違ってたかもしれないね」

「は?」

「わたしと曽根……小さいときとか、中学生のときとか」

「そうかもな」

「ねっ?」

 そう考えるとホントに不思議だ。まして今、こうして一緒に歩いてるなんて。

 その巡り合わせに、心から感謝したい。

 もうさっきからずっと弛みっぱなしの頬を更に弛めて、まだ引かれるままだった手を繋ぎ直した。

 ぎゅっと握り締める。

「瀬戸?」

「――ありがと、曽根」

「あ?」

 怪訝そうに眉を寄せた曽根。それはそうだ。何の前触れもなくお礼を言われたら、困惑したってしょうがない。

 でもね、ホントにそう思ったから。

 もう一度、繋いだ手に力をこめた。そうして告げる。

「来てくれて、ありがとう」

「……どーいたしまして」

 ふいと顔を背けた曽根はぼそっと呟くと、空いてる手で首筋を掻いた。

 彼が照れたときの、いつもの仕草。

 それをニコニコと見つめながら、わたしは繋いだ手をぐいっと引っ張った。

「さ、早く行こっ!」


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