さくら、ひらひら 5
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(……へ?)

 驚いて目を向けると、ちょうどわたしの右手が曽根の左手の中に収まるところだった。

(う、わっ)

 心臓が跳ね上がる。未だに慣れない温もりに。

 だけど曽根は顔色ひとつ変えてない。それが何だか、無性に悔しい。

(ちぇー……)

 そして手を引かれるまま歩きだす。向かうのは、学校からの帰り道でもある商店街。この週末が桜の見頃のピークにあたるせいか、夕方にもかかわらず結構な人出だった。

 花見を終えて帰る人、これから夜桜見物に繰り出す人。家族連れもいれば、友達同士で来てる人もいて。

 みんながみんな、楽しそうに見えるのは――やっぱり、春独特の空気のせいだろうか。

 そんなことを思いつつ、目を細めてすれ違う人を眺めていたら、不意に曽根の声がした。

「着いた早々、わりぃんだけど」

「うん?」

「俺、結構腹減ってて。先に食ってもいい?」

「うん、わたしも食べたい!」

 曽根と一緒に食べるからと思って、ちゃんとお腹を空かせておいたのだ。わたしがニコニコしながら言うと、曽根も機嫌よさそうに訊ねてきた。

「何、食いたい?」

「んーとね」

 こないだ来たときに並んでいたお店を思い出しながら、わたしは答える。

「たこ焼きとじゃがバタは食べたから。……今日はフランクフルトとフライドポテトと……」

 あと『ステーキ』っていうのもあったんだよね。値段は高めだったけど、美味しそうな匂いがしてたんだ。

 あれこれ思い出してたら、少しぎょっとしたような曽根と目が合った。

 彼が口を開く。

「食う気満々だな……」

「ちゃんとお腹空かせてたって言ったじゃん。それより曽根は?」

 さっきからわたしの食べたい物ばかりで、彼の希望を聞いてない。首を傾げてわたしは問うた。

「俺、お好み焼き」

 美味いトコがあんだけど、と曽根が意気揚々と話す。珍しいなあ、曽根が食べ物のことで盛り上がるの。普段、野球に関わること以外には呆れるほど無関心な人だから、何となく笑える。

 思いの外、顔が弛んでしまったんだろう。気がついた曽根が怪訝そうに、わたしを見つめた。


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