さくら、ひらひら 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ いくら二人になれたからって、ここは学校だ。何かする気はないし、しようとしたところで拒まれるだろう。 手に触れることも、髪に触れることも、許されてはいるけれど。 (だーかーらーっ!) また思考があらぬ方向に転がり始めて、俺は頭を抱えたいのを必死になってやり過ごした。変に怪しまれる前にと、何とか口を開く。 「ところでさ」 「ん?」 我ながら感心するくらい動揺のかけらもない声で話を切り出すと、瀬戸がストローをくわえてこちらを見た。それを目にしながら、俺は訊ねる。 「結局、昨日は綾部さんとどこ行ったんだ?」 ぶっちゃけ話題は、あの思考から離れられれば、何だってよかったんだけど。不自然すぎる話題転換を気にする様子もなく、瀬戸ははつらつとした口調で答えてくれた。 「あのね、桜見に行ってきたの!」 「……どこの?」 「駅前の商店街。ほら、あそこの川に沿って、桜並木がずーっと続いてるでしょ?」 「ああ、あそこか」 合点がいって俺は頷いた。ここ最近、登下校のときは周りの景色に目もくれずチャリで全力疾走してたから、桜並木の存在なんてすっかり忘れていた。 ぼそりとそう呟くと、瀬戸が「もったいない」と眉をひそめる。 「すごい綺麗だったよー。出店もいっぱいあって、賑やかだったし」 「花より団子かよ」 「失礼な!」 ちゃんと桜も見てたってば! とムキになる瀬戸に、俺は吹き出した。『桜も』ってことは、出店のほうもよーく見て廻ったってことだろう。綾部さんと二人でってあたり、何とも微笑ましい光景だったに違いない。 ひとしきり笑って、むくれる瀬戸を宥めようと彼女に目を移す。すると、そこには予想外に神妙な顔をした瀬戸がいた。 「……どうした?」 今度は俺が首を傾げる番だった。瀬戸は物言いたげに何度か口を動かして――やがて意を決したように、紙パックを持ってないほうの拳を握りしめる。 「あのね、週末……時間ないかな?」 「週末?」 「桜」 ――曽根と一緒に桜、見たいなぁ。 (だ、からさあ!) おそるおそるこちらを窺う瀬戸に、思わず言葉に詰まってしまった。 |