さくら、ひらひら 4
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「曽根、どうかした?」

 急に黙りこくっちゃって、と瀬戸が上目遣いで問うてきた。手には俺が買ってやった、イチゴ牛乳。わざわざ俺と目を合わせて『いただきます』と呟き、ストローをくわえる。

 何でもない仕草にいちいち頬がゆるむのは、俺がコイツに相当入れ込んでるからだ。

(好きなんだよな)

 いつになく甘ったるいことを考えちまうのは、春特有のこの浮ついた空気のせいだろうか。

「曽根ってばー」

「あ、わりぃ」

 目の前でひらひらと振られる掌の存在に気づいて、俺は我に返った。視線の先には、拗ねたように唇を尖らしている瀬戸が見える。

「どうしたの、さっきから」

「どうもしねぇよ」

 あんな気恥ずかしいことを考えてたとは言えず、俺は少々ぶっきらぼうに応じた。すると瀬戸が不満げに、頬を膨らませる。

「じゃあ、何で黙ってたの?」

「何でって……」

 言い淀みながら、頭に手をやる。言いたくないから誤魔化したんだけど、と思いつつ瀬戸に目をやると、少し不安そうな瞳と行き合った。そんな目をされたら、黙ってるわけにはいかない。

 何だかなあと胸の内でぼやいて、俺は口を開いた。

「だから、久しぶりだなと思ってさ」

「え?」

「だから、お前とゆっくり一緒にいられんの久しぶりだなって思ってたんだよ!」

 半ばヤケになって言って、瀬戸からわずかに視線を逸らした。いや、他にも色々考えてたけど。全部教えるのは、いくら何でも恥ずかしすぎるだろ。

 そう思い、俺は口をつぐんだ。すると視界の隅っこで、瀬戸が笑う気配がする。

「笑ってんじゃねーよ……」

 唸るように言って軽く睨んでやるが、瀬戸は堪えない。さっきまでの表情が嘘みたいに、締まりのない笑みを浮かべている。

「お前なあ……」

「だって嬉しいんだもん」

 俺の呆れた声音にも頓着せず、瀬戸は本当に幸せそうに笑みを深めた。それを真っ直ぐ見ていられなくて、俺は慌てて今度は完全に視線を背ける。

 ちょっとした『毒』みたいだ。そんなふうに思う。

 この笑顔は甘ったるい『毒』のようで――じわじわと俺の理性を絡め取っていく。


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