さくら、ひらひら 4
しおりを挟むしおりから読む目次へ






 ウチは男兄弟しかいない。だから妹がいる哲や成瀬に比べたら、俺は『女心』っつうモンを理解できてない。正直、理解してなくても構わないとさえ思ってた。野球さえ出来れば、俺はそれで満足だったし。そんなんだったから、クラスの女子とだって滅多なことじゃ話さなかった。だから未だに、彼女らの思考パターンはよく分からない。

 だけど瀬戸は違う。元々素直な性格だし、俺がちゃんと見ようとしてるからってのもあるんだろうけど、すごく分かりやすい。今だって、喜んでんだろなってのが丸分かりだし。怒ってるのも、悩んでるのも、ちゃんと気づいてやることができる。まあ、理由までは考えつかなくて揉めることも多いんだけど。他人事に関しては相当鈍い俺が、安心して瀬戸と付き合ってられるのは、ひとえにコイツの素直さのおかげだろう。

 だから変なハナシ――俺は瀬戸に好かれてる自信がある。瀬戸は言葉でも態度でも、きちんとそれを伝えてくれるから。そしてその自信があるから、俺は特に不安もなく自分の好きなことに没頭できる。俺にとっては、ありがたい話。だけど瀬戸にとっては――。

(メーワクな話、だよな)

 胸中でひとりごちる。別に、瀬戸の気持ちに胡坐をかいてるつもりはない。だけど、昨日までほったらかしで寂しい思いをさせてたのも事実。哲が言った――『瀬戸がいなくて寂しいんだろ』ってのも間違いじゃないが、俺は野球やってたぶんだけ、瀬戸ほど落ち込んじゃいなかった。

 大事にしてないつもりはねぇけど、成瀬とかにグチってるくらいだから、やっぱ不満は溜まってんだろう。だから俺は『らしくない』と思いつつも、昼休みを一緒に過ごすことをコイツに提案したわけだ。今はこのくらいしか出来ないし。そして、瀬戸はこの誘いを思った以上に喜んでくれた。

 多分、瀬戸を喜ばせてやることはそれほど難しいことじゃない。瀬戸は大それたことを望んではいない。もう少し一緒にいたいって、そんだけ。それは俺だって、少なからず思ってることだ。だけど、そうするには圧倒的に時間が足んないのが現実で。

(うまいこと、いかないもんだよな)

 思いながら、最後の一口を頬張った。時間がないのはネックだけど、だからってそれを言い訳にはしたくない。

 瀬戸のことを考えるのは苦じゃないから。忙しいのを言い訳にして、寂しい思いをさせたくはない。

 だけどホントに、うまくいかない。


- 188 -

[*前] | [次#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -